歪む記憶と愛のスリラー『ピアス 刺心』
『ピアス 刺心』 12月5日(金) より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
台湾発の刺心スリラーがあまりにも衝撃的でしたので、紹介したいと思います。
フェンシングの試合中に対戦相手を刺殺し、少年刑務所から7年ぶりに出所した兄・ジーハンと、疎遠になっていた弟・ジージエが再会します。「事故だ」という兄の言葉を信じ、ジーハンを警戒する母の目を盗んで兄からフェンシングの指導を受けるジージエ。さらに、ジージエ自身も気づかなかった友人への淡い想いを後押ししてもらい、2人は少しずつ兄弟としての時間を取り戻していきます。しかし、幼い頃に溺れかけた記憶がよぎり始めます。あの時、なぜ兄はすぐに手を差し伸べなかったのか。「僕が死ねばいいと思っていた?」――疑念が深まるなか、悪夢のような事件が起こります。
本作の題材は、「兄弟愛」や「家族愛」といった単語では到底語りきれないほど複雑で重層的です。しかしその根底には、やはり「愛」があったように感じます。母親は、再婚を望む相手に「自分の息子が殺人を犯した」という事実を知られたくなく、真実を語れずにいました。そこからは息子ジーハンへの愛情を感じ取ることができず、むしろ歪んだ距離を生んでしまっています。
一方、弟ジージエは気弱で、フェンシングをしている姿も最初はどこかぎこちなく自信がないように見えます。しかし、兄に指導を受けることでみるみる力をつけていく様子が、非常に繊細に描かれていました。フェンシングの描写があまりにも本格的だと感じながら鑑賞していましたが、のちに調べたところ、監督自身がフェンシングのシンガポール代表に選ばれるほどの腕前だと知り、納得しました。きっとフェンシング経験者が観れば"あるある"が詰まったリアルな作品になっているのだと思います。
幼い頃の記憶が真実かどうかを知っているのは、自分自身だけです。たとえ記憶の中に誤りがあったとして、果たしてそれだけで相手を憎むことができるのでしょうか。形のない「愛」だからこそ、その大きさや深さは他人には計り知れない――本作を観終えて、そのことを強く思いました。
「愛」という曖昧で不確かなものを、これほど鋭く、そして深く描いた作品はそう多くありません。鑑賞後に残る痛みと温度こそが、本作の唯一無二の魅力だと感じました。
(文/杉本結)
『ピアス 刺心』
12月5日(金) より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督・脚本:ネリシア・ロウ(劉慧伶)
出演:リウ・シウフー(劉修甫)、ツァオ・ヨウニン(曹佑寧)、ディン・ニン(丁寧)
配給:インターフィルム
原題:刺心切骨 英題:Pierce
2024/シンガポール、台湾、ポーランド/106分
公式サイト:https://pierce-movie.jp
予告編:https://youtu.be/-6jjeaeNTj4
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