クマ被害のリアル...「オレは今日やられるわ」棒1本で戦った生還者の証言

ドキュメント クマから逃げのびた人々
『ドキュメント クマから逃げのびた人々』
三才ブックス
三才ブックス
1,980円(税込)
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 日本国内でもたびたび出没し、ときに人間を襲う"クマ"。2025年には相次ぐクマ被害などの影響により、「熊」が「今年の漢字」に選ばれたことも記憶に新しい。そんなクマの恐ろしさが垣間見えるエピソードを集めた書籍が、今回紹介する『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(三才ブックス)だ。

 本書では実際にクマに襲われた経験のある人々へインタビューをおこない、当時の様子を尋ねている。その中で紹介されているうちのひとりが、岩手県岩泉町に住む佐藤誠志氏だ。

 佐藤氏はもともと会社員として働きながら、「原生林の熊工房」というネットショップも経営する人物。ペット用品や、山で採れたキノコ・山菜といった食材を販売するかたわら、自身のYouTubeチャンネル「原生林の熊」では山歩きなどの趣味動画を投稿していた。

 そんな佐藤氏がクマと遭遇したのは、2023年9月のこと。岩泉町と盛岡市の境目あたりに位置する早坂高原を訪れた際の出来事だった。当時の心境について、佐藤氏は次のように回想する。

「あの日もマイタケを採るところをYouTube用に撮影してたんです。そうしたら、先の方でガサガサッと音がしたんで、イヌだと思った。一匹連れてきたイヌを離していたから、そいつが戻ってきたんだと思って『おーい!』って声をかけたら、8mばかり先のところでササが2カ所動いたんですよ。

あっ、これはイヌじゃないと思った瞬間、子グマがパーってカラマツの木に登ったんです。それでこっち側に母グマがいるのが見えて。『あぁ、ダメだこりゃ。オレは今日やられるわ』って、その瞬間に覚悟した」(本書より)

 もちろん、佐藤氏はクマとの遭遇リスクをまったく考慮していなかったわけではない。むしろ常日頃から覚悟し、脳内では何度もシミュレーションをおこなっていたという。しかし実際にクマと出会ってしまったとき、彼が持っていたのは山歩きで杖代わりにしていた棒切れのみだった。

 「人間はクマには勝てない」「できるのは、ハッタリしかない」。そう考えた佐藤氏は、近くに生えていたミズナラの木の背後へ回り込み、太い幹を盾代わりにしながらたった1本の棒でクマを叩き続けた。

「もう逃げても無駄だから『イチかバチかカマそう』と思って叩いた。こういうときはいつも以上の集中力が発揮されるもんで、鼻先に命中したんですよ。

でも当たったのに向こうは全然ひるまないで何度も襲って来るんです。『しつけぇなあ、長げぇなあ』と思いながら棒を振り上げた瞬間に間合いに入られて、腕にかじりついてきたから『あぁ終わりだ、もうダメだ......』と観念しかけたんだけど、そうしたらパッて離れて逃げていっちゃった」(本書より)

 運よくクマからの襲撃を凌ぐことができた佐藤氏。命こそ守れたものの、左腕と左脚には爪や牙によって付けられた傷跡が、今なお残っているという。

 佐藤氏がクマに遭遇したのは山の中だった。ところが他のケースでは、クマが人里へおりてきてしまうことも少なくない。

 例えば島根県邑南町で暮らすMさんは、2023年6月に自宅の裏手でクマと遭遇し、いきなり襲われた。

「作業をしとったら、山の方からコーン、コーンいうて、鳥が何か木でも突っついとるような音がした。なんやろかなあ思うて斜面を少し上がっていき、竹藪ん中を覗いたり屈んだりしとったのよ。そうしたらいきなりクマが現れて、抱きついてきよった

こちらを襲うという感じではなかったね。ただ噛もうとしてくる。噛みつくために抱きついてきたんだと思う」(本書より)

 Mさんが襲われた理由は、不用意にクマへと近づき警戒させてしまったからだと推察されている。

「クマは私を引き寄せようとするけど、噛まれちゃかなわんからこっちは押し返す。すると脇腹に当たってる爪がぐいぐい食い込んで、傷だらけというほどにはならんかったけど、こっちは引き寄せられんよう抵抗するけぇ余計に傷付いてしまう」(本書より)

 そしてしまいにはクマの攻撃がMさんの顔面に当たり、右目に命中。バランスを崩したMさんはクマとともに地面へ倒れ込むと、驚いたクマはその拍子に逃げていったという。命を失わずに済んだMさんだが、その代わりに右目の視力を失ってしまった。

 クマと遭遇した人々のエピソードは、どれも悲惨なものばかり。そのような被害に遭わないためにも、山に入る際はクマよけ鈴を用いたり、藪の中で妙な物音がするときは急に近づかないようにしたりと、遭遇率を減らせるよう工夫することが大切だ。

 本書を通じてクマ被害のリアルを感じつつ、もしものときに身を守るためのヒントとして参考にしてみてほしい。

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