真実を知ったとき、涙があふれる----『おばあちゃんと僕の約束』

『おばあちゃんと僕の約束』 6月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
本作はタイ映画の世界興行収入歴代No.1になったことで話題となっている大ヒット作品。さらに、第97回アカデミー賞®国際長編映画部門のタイ代表として、タイ映画として初めてショートリストに選ばれた作品でもあります。口コミだけでもかなり気になると心の隅に留めていた作品が、ようやく日本での公開が決まったということで、すごく嬉しい気持ちになりました。
そんな本作、派手なアクションシーンがあるわけではなく、世界中どこでも起こる家族の遺産問題や老後の孤独、喪失、いつかやってくる「死」と向き合う各世代の思いがつまった作品となっています。
大学を中退してゲーム実況者を目指す青年エム。従妹のムイが祖父から豪邸を相続したと聞き、自分も楽をして暮らしたいと画策。彼にはお粥を売って生計を立てている一人暮らしの祖母メンジュがおり、ある日、ステージ4のガンを患っていることが判明。エムはメンジュに近づいて相続を得ようとするが、メンジュと一緒に過ごすうちに、エムの気持ちが次第に変化していく...。
みなさんは家族で集まる場所はありますか? 核家族化が進む中で、家族が集まる場所が失われつつあることはとてもさみしくもある現実であり、現代社会が向き合うべき問題の一つでもあるように思います。実家や親戚が多く住む田舎に、お盆やお正月に集まる家庭も多いと思います。そんな田舎に普段はだれが住んでいますか? 年老いた親が1人で住んでいるという家庭も少なくないと思います。そんな親世代がいなくなったあとの田舎には、都会に出てしまった子ども達が帰ってくることは少なく、家族で集まる場所が失われていくのだと本作を鑑賞しながら感じました。それは日本だけではなく世界中で起こっている出来事なのだとも思いました。
本作を鑑賞する中で、年老いた祖父母が「死」に近づいているとわかると金銭を目的に近づく家族の姿が醜くもあるけれど、とてもリアリティーがあり人間の本性を見ているようでした。だけど、本作ではそんな人々が悪役として描かれていなかった点が作品の素晴らしさに繋がったように思います。誰しもがもつ負の感情を悪としないで当たり前の感情として表現していた点が、どこか自分自身の持つ負の感情を肯定されているようにも感じました。
いつかはやってくる家族の死、自分自身の死についてゆっくりと静かに考える機会をくれる素敵な作品でした。
(文/杉本結)
『おばあちゃんと僕の約束』
6月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
監督・脚本:パット・ブーンニティパット
出演:プッティポン・アッサラッタナクン(ビルキン) ウサー・セームカム サンヤー・クナーコン
サリンラット・トーマス(『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』) ポンサトーン・ジョンウィラート トンタワン・タンティウェーチャクン
配給:アンプラグド
2024年/タイ/126分
公式サイト:https://unpfilm.com/lahnmah/
予告編:https://youtu.be/L-3yV0ovU9k
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