もやもやレビュー

本当にあった怖い話『デビルズ・バス』

『デビルズ・バス』 5月23日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

世界中のホラー映画ファンを震撼させた『グッドナイト・マミー』 のヴェロニカ・フランツ&ゼヴリン・フィアラ監督が、実際の裁判記録をもとに宗教とタブーに支配された歴史の暗部を描いた本作。嫌な予感しかしないけれど、2024年・第74回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品、芸術貢献賞(銀熊賞)受賞と聞いたら観ないわけにはいかない。怖いものみたさのような気持ちで鑑賞した。

本作の原題『Des Teufels Bad』とは悪魔の風呂、鬱状態のことを指す言葉である。なんの知識も入れずに鑑賞することにしたが、この監督の前作を知っているだけに鑑賞するのが怖いな...と少し思った。

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18世紀半ば、オーストリア北部の小さな村。古くからの伝統が残るその村に嫁いだアグネスは、夫の育った世界とその住人達に馴染めず憂鬱な生活を送っていた。
それだけでなく、彼らの無神経な言動やおぞましい儀式、何かの警告のように放置された腐乱死体など、日々異様な光景を目の当たりにして徐々に精神を蝕まれていく。
極限状態に追い込まれ、現実と幻想の区別すらつかなくなった彼女を、やがて村人たちは狂人扱いするようになる。果たして、気が狂っているのはアグネスなのか、それとも村人たちなのか。やがてアグネスは、村から、この世界から自由になるために驚くべき行動にでる。

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本作、最初から、赤ちゃんが滝つぼに落とされた! どういうこと?というスタート。その後も目に入る情報に「?」の連続。一体どういう意図があってこの行動をとったのだろう?とわからないことだらけの始まり。不可解な行動の意味も理解できないまま、違和感を心の中でまといながらどんどんと物語は進んでいった。アグネスは結婚して違う集落へ嫁ぎ自分がいた今までの常識が全て通じない世界にきたかのようだった。風習が違うにも限度がある。日に日にアグネスの様子が変化していく様がゆっくりと丁寧に描かれていた。

最後は宗教色の強い展開になるのだが実際に行われていたことだとあとから知り驚いた。「自分の普通は本当に普通なのか?」誰にも問うことも相談することもできなかったアグネスはどれだけ苦しかっただろうか。日本でも本作と似たように、ある街に都会から行くとどこか不穏な空気が流れていて実は街ぐるみでいけないことをしていたという内容の物語はよく見かけるが、それに似ているようにも思った。

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ラストの展開は衝撃的で驚いた。ホラー作品と聞いていたが、歴史のどす黒いところを切り取った作品だった。鬱状態が続く作品だが、そこから得る気づきもある作品だった。
自分の信念を持って生きることの大切さと難しさ両方を痛感した。本作、静かな環境で深い森に迷い込むように鑑賞することをおすすめしたい。

(文/杉本結)

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『デビルズ・バス』
5月23日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

監督・脚本:ヴェロニカ・フランツ、ゼヴリン・フィアラ
出演:アーニャ・プラシュク、ダーヴィド・シャイト、マリア・ホーフスタッター
配給:クロックワークス

原題:DES TEUFELS BAD|英題:THE DEVIL'S BATH
2024年/オーストリア、ドイツ/121分
公式サイト:https://klockworx.com/movies/devilsbath/
予告編:https://youtu.be/LHUOQ8bxrqY
© 2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion

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