もやもやレビュー

若者の挫折と家族の成長を音楽に乗せて『WAVES』

WAVES/ウェイブス(字幕版)
『WAVES/ウェイブス(字幕版)』
トレイ・エドワード・シュルツ,トレイ・エドワード・シュルツ,ケルヴィン・ハリソン・ジュニア,テイラー・ラッセル,スターリング・K・ブラウン,レネー・エリス・ゴールズベリー,ルーカス・ヘッジズ,アレクサ・デミー
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一人の若者の悲劇とその家族の再生を大胆な手法で描いたヒューマンドラマ「WAVES」を紹介したい。

フロリダのハイスクールに通うタイラーは、裕福で恵まれた家庭に育ち、成績優秀でレスリングのスター選手。父と母、妹、そして同級生のアレクシスという美しい恋人がいて、2人は深く愛し合っている。

映画の前半で描かれるのが、若くして勝者の切符を手に入れているはずのタイラーが、瞬く間に崩れ去っていく様子。部活や恋愛、家族や友人という、誰もが経験するだろう青春の1シーンのなかで、彼はどうして二度と取り戻すことのできない過ちを犯してしまったのか。

後半では、殺人犯として重い判決がくだったタイラーを横目に、妹エミリーの視点で家族の成長が描かれていく。周りの誰もが生きていくのに辛さを感じ、簡単には折り合いのつかない日々を送っているが、そこでは終わらない。全員がほんのわずかな光を掴むまでを丁寧に表現していく。

心情とリンクするように流れるのが、フランク・オーシャンやケンドリック・ラマ―、レディオ・ヘッド、カニエ・ウェストなどの楽曲群。これが信じられないほど抜群にフィットしているのだが、どうやら、トレイ・エドワード・シュルツ監督が、事前にプレイリストをつくり、そこから脚本を練ったのだという。さらに、登場人物の心理状態に合わせて、画面のアスペクト比を変えるという手法もとっている。おしゃれ。

そして「WAVES」というタイトル。人生や感情の起伏という意味合いも込められているだろうが、劇中での水のシーンも印象に残っている。美しい夕景のビーチやカヌー、マナティ。兄妹がそれぞれバスルームで見せる表情。心のさざ波を表しているようだと思った。

(文/峰典子)

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