『月刊予告編妄想かわら版』2025年03月号

『ベイビーガール』(03月28日公開)
毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』四十三回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
03月公開の映画からは、この四作品を選びました。
*
『ケナは韓国が嫌いで』(03月07日公開)
公式サイト:https://animoproduce.co.jp/bihk/
予告編:https://youtu.be/hNO2_pLxaYc?si=79pMeYO766rQo3xh
日本でも話題になった『82年生まれ、キム・ジヨン』と同じ出版社から刊行されたベストセラー小説を原作にした『ケナは韓国が嫌いで』。
通勤に二時間かかる郊外に家族と住んでいる28歳のケナ。冬の寒さも苦手で、現状の辛さを伝えても「将来は僕が養うからさ」と的外れなことをいう恋人、このままでは幸せになれると思えない彼女はすべてを捨てて、ニュージーランドへ旅立つ。
「ここからもう一度始めるの」と誓うケナは新しい人生を始める。新しい友人の白人女性とサーフボードを持って浜辺を歩いている姿も予告編で見ることができます。
ここからは妄想です。予告編には韓国に残っている家族とビデオ通話しながら泣いている彼女の姿もあります。ケナの行動は家族からすれば、自分たちを捨てたと思えるものだったかもしれません。しかし、ニュージーランドで新しい生活を送る彼女とのやりとりの中で、がんばってほしいという気持ちに変わっていくのでしょう。
天才とは家族の抑圧から生まれると前に聞いたことがあります。医者や公務員ばかりの家庭や一族の中で、例えば役者などの表現者になったりする人が出てくる。それは家族の中にある押し殺した欲望を誰かが体現することになるからだというものでした。ケナは家族のここではないどこかへの、韓国社会の一つの欲望の体現者なのかもしれません。
『ケナは韓国が嫌いで』
3⽉7⽇(⾦)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
配給:アニモプロデュース
© 2024 NK CONTENTS AND MOCUSHURA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
*
『ロングレッグス』(03月14日公開)
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/longlegs/
予告編:https://youtu.be/Z03AyAkracY?si=2PlAe54Iv7y0m7OK
「この10年でいちばん怖い映画」という惹句が踊る恐怖映画『ロングレッグス』。製作を兼任したニコラス・ケイジがシリアルキラーを演じた話題作。
1990年代半ば、オレゴン州のFBI新人捜査官のリー・ハーカー(マイカ・モンロー)は未解決事件の担当に抜擢される。その事件とは30年間で10の家族が惨殺された連続殺人だった。
現場には犯人であるロングレッグスから「暗号文」が残されていたが、その不思議な文字はまだどんな意味なのか解読されていないようです。
「すべての暗号が解けた時、未体験の恐怖が解き放たれる」というナレーション、「お嬢ちゃんやっと会えたね」という不気味な声も予告編で聞くことができます。
ここからは妄想です。子供の顔の上半分がなく煙が舞っているシーンなども予告編にあります。これはもしかするとここにいる人間たちは機械やアンドロイドなのかもしれません。そもそもこの世界が90年代を舞台にした仮想現実であり、ゲームマスターがロングレッグスだったという可能性はどうでしょうか? 実は犯人である彼がこの世界を作った神のような存在であり、誰かが暗号を解いて自分の元にやってくるのを待っている。
ロングレッグスにたどり着いたことでリー・ハーカーはさらに壮絶な事件に巻き込まれていくという続編に続く終わり方ではないでしょうか?
『ロングレッグス』
3月14日(金)全国劇場公開
配給:松竹
© MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.
*
『その花は夜に咲く』(03月21日公開)
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/yorunisaku/
予告編:https://youtu.be/dxTch0P_xuA?si=FFRW7VV1wraP3URx
デビュー作『第三夫人と髪飾り』でスパイク・リーやトラン・アン・ユンに才能を絶賛されたアッシュ・メイフェア監督最新作『その花は夜に咲く』。
物語の舞台は1998年のサイゴン。望まぬ性に生まれたサンは夜のナイトクラブで歌っていた。「俺にはお前はもう完璧な女だよ」と眠っているトランスジェンダーであるサンに話しかけるボクサーで恋人のナム。
ナイトクラブに現れた街のフィクサーのヴーンにサンはパトロンになってもらい、彼との逢瀬を重ねながら性別適合手術費用を稼いでいく。サンの思いを知るナムは自分も金を稼ぐために地下格闘技に手を染めていくことになるようです。
ここからは妄想です。予告編の中には「子どもを作るには代理出産じゃないと無理」というサンのセリフがあり、代理母らしき若い女性と一緒にナムがいるシーンやサンが子どもを抱いているシーンがあります。牢屋に入れられているナムの姿も予告にあるので地下格闘技で彼は人を殺めたか犯罪に加担して捕まったのかもしれません。
代理母によって生まれたナムの子どもをサンが引き取って育てながら、彼の刑期が終わるのを待っている。最後は家族三人での再会、サンはかつて求めていた女性に、そして母になっている姿を見て出会った頃のことを思い出しながら、二度と離さないと誓う感動的なラストではないでしょうか?
『その花は夜に咲く』
3月21日(金)シネマート新宿ほか全国順次公開
配給:ビターズ・エンド
ⓒAn Nam Productions, Đông A Films, Akanga Film Asia, Bitters End, Mayfair Pictures
*
『ベイビーガール』(03月28日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/babygirl/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=f7Pgl9gtjWk
A24とオスカー俳優であるニコール・キッドマンが組んだ危険なパワーゲームを描いた『ベイビーガール』。
NYでCEOとして事業をおこして大成功しているロミー(ニコール・キッドマン)は夫と二人の娘にも恵まれて、誰もが憧れる生活を送っていた。ある日、自分に向かってきた犬を口笛で操るかのような若い青年サミュエル(ハリス・ディキンソン)が自分の会社のインターンとして入ってくる。
「本当は命令されたいのでは?」「まずは僕の命令を聞くこと」「電話1本であなたは破滅する」という挑発的なサミュエルのセリフも予告編で聞くことができます。
ここからは妄想です。いや、官能ですと言いたくなるような予告編を見ていると、次第にサミュエルによってロミーは彼女の中に眠っていた欲望が引き出されていくようです。主導権を、自分が握っていたと思っていた"手綱"はいつしか彼に握られていく。年上で立場も上のロミーはただの言いなりになってしまうのかと思えなくもないのですが、この時代にあえてこういう作品を作る以上、女性自身の性をどう肯定していくのかを描いているのではないでしょうか?
ロミーはサミュエルの命令に従順に従うようになってしまうが、やがて自分の中に支配されたいという気持ちよりもこの若い男を支配し続けたいという欲望が勝り出して、立場が再逆転するというラストではないでしょうか?
『ベイビーガール』
3月28日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
*
文/碇本学
1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。