人間と人型ロボットが築く愛と未来『アフターヤン』
- 『アフター・ヤン(字幕版)』
- コゴナダ,Philipp Engelhorn,Becky Glupczynski,Andrew Goldman,Caroline Kaplan,Paul Mezey,Theresa Park,Alexander Weinstein,コゴナダ,コリン・ファレル,ジョディ・ターナー=スミス,ジャスティン・H・ミン,マレア・エマ・チャンド,ヘイリー・ルー・リチャードソン
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カメラのファインダーが自然の中でたたずむ家族の姿を捉えている。セルフタイマーを設定しているのだろうか。「早く来い」と声を掛ける父親と、急いで駆け寄る青年。そこに収められたのは幸せが溢れんばかりの四人の家族写真。ほんの僅かな時間で、この作品は強く「家族」を描く作品なのだと理解できる。
幼少期に韓国から移住した、アジア系アメリカ人のKogonada(コゴナダ)監督。そのペンネームは、小津安二郎作品の脚本家である「野田高梧」からとったものだといい、長編デビュー作『コロンバス』は、小津にリスペクトとオマージュを捧げた作品として日本でも話題となった。
そんな監督の長編2作目である『アフター・ヤン』は、人型ロボット"テクノ"が普及している未来を舞台にしたSF作品である。茶葉店を営む父ジェイク(コリン・ファレル)と妻カイラ(ジョディ・ターナー=スミス)、中国系の養女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ)。そして、ヤンと名付けられたテクノ(ジャスティン・H・ミン)。
大切な家族の一員として過ごしていたヤンであったが、ある日突然動かなくなってしまう。何とか修理しようと奮闘するジェイクは、ヤンの内部に映像を記録するメモリバンクが組み込まれていることを知る。その記録の中には、穏やかな日常、そして知らない女性(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の姿が映し出されていた。果たして彼女は何者なのだろうか。家族が知らなかったヤンの秘密、そして記憶とは。
終始、静かで言葉数は少なく、家族のアルバムをめくっていくようなやさしい雰囲気に包まれる。ポロポロとこぼれ落ちていくようなピアノ音も美しい。劇伴はアスカ・マツミヤ。テーマ曲「Memory Bank」を手掛けたのは坂本龍一。コゴナダ監督もアスカ・マツミヤも坂本龍一ファンだったことから叶ったという。近未来でありながら有機的、冷たく暖かい、ヤンの心の中そのもののようだ。
(文/峰典子)