もやもやレビュー

手放すことも愛なのか――『私のすべて』が描く、親と子の選択

『私のすべて』 2月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

2025年3月に開催された横浜フランス映画祭2025にて、『My Everything』のタイトルで日本初上映された本作が、ついに劇場公開されることになった。
鑑賞した友人から「とても良い作品だった」という評判を聞き、観賞できる日を楽しみにしていた一本である。

フランス映画といえば、毎年楽しみにしている自宅で参加できるフランス映画祭「マイフレンチフィルムフェスティバル」がある。今年は開催がなく残念だったが、2027年にはパワーアップして戻ってくるとのことで、フランス映画ファンとしては楽しみに待ちたい。

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パリ郊外で、発達障がいのある30代の息子ジョエルと暮らすシングルマザーのモナ。ある日、ジョエルの恋人の妊娠が発覚する。相手の親は堕胎を望むが、当の二人は出産への強い意志を示す。息子の自立と急激な変化に動揺するモナは、自身の孤独を埋めるように男性フランクと関係を持つが、息子中心の生活との板挟みに苦悩していく。
気晴らしの旅先でジョエルとはぐれてしまったモナは、祭りの雑踏の中で必死に息子を探し回る。一方ジョエルは、巨大な人形に自分たちの未来を重ね合わせる。

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障がいのある息子を一人で育ててきた主人公・モナ。劇中で彼女が「普通だったらよかったのに!」と叫ぶシーンは、これまで胸の奥に押し込めてきた本音を、初めて外に吐き出した瞬間だったように感じられる。
障がいのある子どもを持つ親は、どうしても「自分が守らなければ」という思いを抱え続けるものだろう。しかし、ジョエルも30代となり、年齢的には自立を考える時期に差しかかっている。恋人の妊娠を前に、ジョエルは迷うことなく「子どもが欲しい」と母親に伝える。だが、障がいのある親同士がどのように赤ちゃんを育てていくのか。ジョエルの恋人の親は猛反対をする一方で、モナは明確な答えを出すことなく、ジョエルの言葉に耳を傾け続ける。感情的になる瞬間はあれど、そこには大きな愛があり、長い間子ども中心の生活に身を投じてきた一人の女性として、モナにも幸せになってほしいと、思わずにはいられなかった。

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綺麗事だけでは片づけられない問題だからこそ、向き合う必要があるテーマだと感じる。もし身近に同じ立場の人がいたら、どんな支援ができるのかを考えていくことも大切だろう。実際、日本では、これまで気づかれなかった症状に病名がつくようになったことや、高齢化、ストレスの増加など、さまざまな要因によって障がいのある人の割合は増加傾向にあり、人口の約9%を占めるとされている。また、世界人口のおよそ8分の1、約10億人が何らかの障がいを抱えているとも言われている。

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この映画は、「親が障がいを持つ子どもをどのように受け入れ、どのように手放していくのか」という問いを、観客に静かに、しかし丁寧に投げかけてくる。
障がいを持つ人々の恋愛や家庭生活は、いまだに社会の中でタブー視されがちだ。しかし彼らにも、自立し、家族を持つ権利がある。本作は、その当たり前の事実について考えるきっかけを与えてくれる作品だと感じた。

(文/杉本結)

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『私のすべて』
2月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督・脚本:アンヌ=ソフィー・バイイ
出演:ロール・カラミー、シャルル・ペッシア・ガレット
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

原題:Mon Inséparable 英題:My Everything
2024/フランス/95分
公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/myeverything/
予告編:https://youtu.be/YAPxJWJZG0M
© 2024 L.F.P. - LES FILMS PELLÉAS / FRANCE 3 CINÉMA

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