腰痛も心臓病も避けられない? 人類が背負った進化の宿命

残酷な進化論: なぜ私たちは「不完全」なのか (NHK出版新書 604)
『残酷な進化論: なぜ私たちは「不完全」なのか (NHK出版新書 604)』
更科 功
NHK出版
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 我々人類は進化の過程で高い知能を持ち、地球上で大繁栄している。事実上地球の支配者と言えなくもないだろう。しかし、走る速さは四足歩行の動物に劣り、空を飛べるわけでもない。『残酷な進化論 なぜ私たちは「不完全」なのか』の著者・更科 功氏は、人類の繁栄を「たまたま現在の地球で繁栄しているということであって、別の場所や時代に行ったら、どうなるかはわからない」と解説する。

「つまり、ヒトって、大したことはないのだ。オンリー・ワンではあるけれど、ナンバー・ワンではないのだ。だから、ヒトという種が偉いと思っているヒトには、ある意味、進化というのは残酷なのかも知れない。だって、ヒトを特別扱いしてくれないから」(本書より)

 「進化というのは残酷」とは、一体どういうことなのか。たとえばヒトは四足歩行から二足歩行に進化したことで、胴体が地面から高い位置になった。その結果、血液を全身に送るため心臓には強いポンプ機能が求められるようになった。ヒトの心臓が「左心房」「右心房」「左心室」「左心室」の4つに分かれているのは、そうした進化の過程によるものだ。

 だがその結果、心臓病のリスクを抱える構造にもなった。心臓の筋肉に酸素を届ける「冠状動脈」は直径が細く、詰まりやすい。詰まって血流が滞ると、狭心症や心筋梗塞のリスクが高まる。また、冠状動脈は心臓を取り囲むように走っているため、心臓に酸素を供給できるのは主に拡張期に限られる。激しい運動時には拡張期が短くなり、十分な酸素が行き渡らない状況が生じやすい。

「そういう意味では、進化は心臓にも優しくないようだ。(中略)冠状動脈などの心臓の構造は、進化における設計ミスではなくて、進化にとっては理想的な構造かもしれない。ただそれが、私たちにとっては不都合な構造だったということだ」(本書より)

 また、ヒトが二足歩行となったときの「脊椎」の進化にも不都合なものがある。それが、「腰痛」に悩まされるようになったことだ。二足歩行で生活するためには脊椎を直立させなければならない。多くの四肢動物では脊椎が水平なので椎間板に無理な圧力がかかることはないが、人類は直立しているため常に強い圧力がかかっているのである。

 さらに同じく二足歩行をするチンパンジーと比べても、ヒトの腰椎は前後左右に比較的自由に動かせるという。どんなものでもそうなのだが、よく動かすところは壊れやすい。そして腰椎には上半身の重みが全て乗ってくるのだ。これでは腰痛になるなと言うほうが無理ではないだろうか。

 とはいえ、もしかすると腰痛の大きな原因は"老化"かもしれないとも著者は分析する。四足歩行のペット、たとえばイヌなどが高齢化で脊柱に問題を起こすことは割とよくあることだからだ。

「この先も脊椎は、私たちの体の中に存在し続けるだろう。脳が大きくなっても小さくなっても、姿勢が直立のままでも四足歩行に戻っても、私たちは脊椎動物であり続けるだろう。どうやら人類が腰痛から逃れることは、なかなか難しそうだ」(本書より)

 進化の残酷さは「出産」にも現れている。実はヒトは、哺乳類の中でも最も難産な種だ。理由は2つ。1つめは「直立二足歩行」であること。直立二足歩行をするためにはバランスを取る必要があり、脊椎は横から見るとS字状にカーブしている。そのため胎児は生まれる際に、体をS字に曲げなければならない。さらに直立二足歩行で下向きに重力を受けた内臓が骨盤の穴をくぐり抜けて落ちないよう、筋肉が発達している。この筋肉が出産のときに邪魔になるのだ。

 2つめの理由は、胎児の頭の大きさ。人類の脳が発達し、大きな頭を持つようになったため、産道を通るのが大変になった。特にこの2つめの理由が、ヒトが難産である大きな理由と考えられる。

 では頭の大きな胎児でも楽々通れるように、骨盤をとても大きく進化させればよかったのではないだろうか。そう考える人もいるだろう。しかし、それにも問題が発生する。人が歩く際には骨盤が左右に少し回転するのだが、骨盤が大きくなると回転するのに使われるエネルギーが増加し、歩くのが遅くなるのだ。

「速く歩いたり走ったりするには、ある程度骨盤が小さいほうがよい。そのため、骨盤をいくらでも大きくするわけにはいかないのである」(本書より)

 「あちらを立てればこちらが立たず」とは、まさにこのこと。ただし、この"どうにもならなさ"もまた進化というものではないだろうか。

 本書の中で、著者は進化を「進んだり戻ったりする」と説明している。そもそも、どのような環境にも完ぺきに適応する進化というものは存在しない。そういった意味では、ヒトもまだまだ進化の途中なのだ。本書を通して、「ヒトは単なる生物の1種である」という真理に触れてみてほしい。

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