もやもやレビュー

憑いてる?ついてない?いや、ツイてる?『死に損なった男』

『死に損なった男』 2月21日(金)公開

近年、映画やドラマをみていても半数以上が原作の小説やマンガがある作品でストーリーを知っていることも多い。その中で、オリジナル脚本の映像作品と聞くと、先の見えないストーリーが見られるというワクワクドキドキした気持ちで胸が高鳴る。映画を見ることがまるで小説の1ページ1ページ次の展開が気になってページをめくる時のような感覚になれるのだ。
今回紹介する『死に損なった男』は、2019年長編映画デビュー作『メランコリック』が国内外の映画祭で絶賛され数々の賞を受賞した気鋭監督・田中征爾のオリジナル脚本作品だ。

死に損なった男_サブ4.jpg

関谷一平(水川かたまり)は、お笑い芸人の構成作家として仕事に追われる日々に、疲弊していた。 仕事では思うように成果を残せない、親しい友人や恋人はいない、これといった趣味もない。報われ ず、張り合いのない人生に諦めを感じた一平は、ついに駅のホームから飛び降りることを決意する。 しかし、隣の駅で人身事故が起きたため、死に損なってしまった。なにごともなかったかのようにいつもの日常を過ごす一平の前に突然、男の幽霊が現れ、とんでもない依頼をする。「娘に付きまとっている男を殺してくれないか?」 男を殺すまで取り憑くという幽霊の脅迫に、一平がとった選択とは? 死に損なった男が辿る数奇な運命とは―

死に損なった男_サブ2.jpg

デビュー作『メランコリック』と『死に損なった男』どちらにも共通しているのが『死』が作品の中心にある。テーマは重そうなのに不思議と重すぎない作品に仕上がっている。そのマジックは実はとても念密な計画の上に、成り立っている。田中監督の書く脚本は殺し屋や幽霊といった絶対にあるはずのない非日常と、銭湯や人身事故というすごく身近にありそうな現実的な部分が1つの作品の中でうまく融合している。また今回の作品において主人公を「キングオブコント」2021優勝の経歴を持つ空気階段・水川かたまりが演じたことで、実際にお笑いでもネタ作りがあるのだろうと想像できるので構成作家という役に違和感が全くなかった。誰かと話をすることでアイディアがあふれ出してくるシーンは本当に楽しそうだった。もしも、この役をある程度みたことのある俳優が演じたとしたらありそうな現実感から遠のいてしまっていたかもしれない。この絶妙なバランスで作品を面白くしている。
田中監督の持つ唯一無二の世界観、次はどんな世界をみせてくれるのだろうか? 今後も追い続けたいと思う監督がまた一人増えた。

(文/杉本結)

***
死に損なった男_サブ1.jpg

『死に損なった男』
2月21日(金)公開

監督・脚本:田中征爾
出演:水川かたまり(空気階段)、唐田えりか、喜矢部豊(ゴールデンボンバー)、堀未央奈 ほか
配給:クロックワークス

2024/日本映画/109分
公式サイト:https://shinizokomovie.com
予告編:https://youtu.be/QHXV0YWUCE0?si=mp99iXR-vqGLsgGa
©2024 映画「死に損なった男」製作委員会

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム