漕ぎ続けろ!『THE NOVICE ノーヴィス』
『THE NOVICE ノーヴィス』 11月1日(金)公開
『セッション』のサウンド・クリエイターが、自らの体験を基に、ローイング(ボート競技)の世界に魅入られた女性の情熱と狂気の物語を作り上げた。常人が辿り着けない深淵の世界を描き出し、観る者を熱狂させた待望の傑作がついに公開される。
大学のボート部に入部したアレックスが、「困難だからこそ挑戦するのだ」という J.F.ケネディの言葉を胸に、己の限界に打ち勝ちたいという一心で過酷なトレーニングに身を投じていく。だが、その情熱と強すぎる執着心は次第に狂気を帯び...。怒涛のラスト8分間。激しい雨が降り、雷鳴轟く夜明け前、シングル艇に乗ったアレックスの暗くて熱い思いが炸裂する。
本作、音で作品が作り上げられていると言っても過言ではないくらい音が頭から離れない。最初から「脚体腕」というフレーズがなにかの呪文のように流れ続ける。
漕ぎ続けるアレックスはローイングについてなんの知識もない素人の私から見ても、誰の目から見ても異常なほどの練習量。痛めつけられるのは自身の体だけではなく心までも正常ではなくなっていく。心配する周りの声も聞こえなくなるほどに競技に没頭していくアレックスの様子はサイコパスとしか言いようがない状態にまでなっていく。
だれよりも早いタイムにこだわり、周りが見えなくなっている。ただ、この競技1人だけタイムが良ければ勝てるというわけではない。チームで一丸となって戦う必要があるのだ。たしかに競合チームで少ないレギュラーの枠を勝ち取るためには先輩も後輩も関係ない。成績でシビアに決める必要がある下剋上も時には存在するのだろう。それでも、チームの代表となるということは出られない選手もいるという事実を謙虚に受け止めるべきだろう。周りの声も届かないほどに彼女がこだわる、1番になることへの執着がラスト8分に凝縮されていた。
鑑賞中の半分以上がずっと溺れているような感覚にさせられる。張り詰めた不快な音が身体中を包んでいた。
また、何度も現れる「カニ」は合格の象徴、縁起物とされている。負けたくない、そんなアレックスを見守るかのようにカニが度々劇中に現れていた。
気づけば97分、あっという間にボートはゴールへとたどり着いていた。最後に彼女がみる景色はどのようなものなのか? ぜひ劇場で音を楽しみながら鑑賞して欲しい作品だった。
(文/杉本結)
『THE NOVICE ノーヴィス』
11月1日(金)公開
監督・脚本・編集:ローレン・ハダウェイ
出演:イザベル・ファーマン、エイミー・フォーサイス、ディロン
配給:AMGエンタテインメント
原題:THE NOVICE
2021/アメリカ/97分
公式サイト:https://www.novice-movie.com
予告編:https://youtu.be/iBELrvFoQ5s
©The Novice, LLC 2021