もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭 第53回】『クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉』

クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉 [Blu-ray]
『クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉 [Blu-ray]』
洋画
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『クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉』
1970年 イタリア・スペイン 88分
監督/マリオ・バーヴァ
脚本/サンチャゴ・モンカダ、マリオ・ムージー
出演/スティーヴン・フォーサイス、ダグマー・ラッサンダー、ラウラ・ベッティ、ジェラール・ティシィーほか
英題『HATCHET FOR THE HONEYMOON』

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 筆者は先月の冬季オリンピックで、JKスケーター・中井亜美ちゃんの首傾げポーズと足バタバタにハートを射抜かれてしまったオジサンの一人です。そこで今回は半ば強引に、開催地イタリア繋がりでサンレーモ生まれのマリオ・バーヴァ監督作品を紹介します。平成・令和世代にはピンと来ないと思いますが、昭和の時代には『悪魔のいけにえ』(74年)のトビー・フーパー、『サスペリア』(77年)のダリオ・アルジェント、『ゾンビ』(78年)のジョージ・A・ロメロらと共にホラー映画の巨匠として並び称されていました。バーヴァの監督デビュー作『血ぬられた墓標』(60年)は、古城や古屋敷などを舞台にしたゴシック・ホラーの名作と呼ばれ、ヒロインのバーバラ・スティールは、現在でも世界中のホラーマニアから「絶叫クイーン」として崇められているのです。

 スタイリッシュな映像美による美女の猟奇的殺害シーン。低予算の中でも卓越した美術センスと色彩効果。残虐とエロスが同居する独自の世界観をバーヴァは築きました。中でも『知りすぎた少女』(63年)は、その後にジャンルが確立するジャッロ映画の先駆けでした。「ジャッロ」とはイタリア語で黄色を意味し、当時のイタリアで出版されていた推理小説の表紙が黄色かった事に由来します。バーヴァは『ザ・サイキック』(77年)のルチオ・フルチと共にジャッロ映画の佳作を生み続け、後にイタリアン・ホラーの寵児となるダリオ・アルジェントに大きな影響を与えました。

 さらにバーヴァ作品は海外の映画界にも波及し、『バンパイアの惑星』(65年)は『エイリアン』(79年)の元ネタ、『血みどろの入江』(71年)は「13日の金曜日シリーズ」などスプラッター映画の元祖。またバーヴァ作品の最高傑作と評される『呪いの館』(66年)はジャパニーズ・ホラーにも影響を及ぼし、少女達が次々と家に食われていく『HOUSE ハウス』(77年)の大林宣彦監督は、彼をリスペクトするあまり遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(19年)で、主人公を馬場毬男(ばばまりお)と命名していました。他にもマーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、ティム・バートン、クェンティン・タランティーノなど、錚々たる巨匠達がマリオ・バーヴァを崇敬しているのです。


『クレイジー・キラー 悪魔の焼却炉』のオープニングは、とてもホラー映画とは思えない美しい旋律の音楽が流れます。だが物語が始まると一転、夜行列車の個室でイチャついていた新婚旅行中のカップルが、侵入してきたハンサムな青年に肉切り包丁でメッタ斬りにされるのです。青年は血まみれの手でウエディングドレスを大事そうに触り、「私はジョン・ハリントン、30歳。パラノイア(妄想症、偏執病)だ。完全にイカれている」と独白します。いきなり犯人バラシのスタートには面食らいました。

 ジョンはウェディングドレスの特注品を仕立てるハリントン社の若き社長。元々は母親の会社でしたが、彼女が何者かに殺害され倒産寸前に追い込まれました。そこへ資産家の娘がジョンを見初め、結婚して会社を立て直したのです。しかしジョンの妻に対する愛情はなく、別れ話を持ち掛けては「絶対別れないわよ!」と頑なに拒絶されるのでした。ちなみに、冒頭の殺しで手に取っていたウエディングドレスはハリントン社製でした。

 これまでジョンは既に5人の花嫁を殺していて、その動機は本人にも解らず、どうやら殺すたびに少しずつ謎が解けていっているようです。ジョンの密かな楽しみは、これまで作ってきたウエディングドレスをマネキンに着せたコレクション部屋に入り、衣装に抱擁したりキスしたりして陶酔する変態行為です。そして殺した遺体に関しては、まず自宅にある温室の花壇に埋めて隠し、後に備え付けの青い焼却炉(これもバーヴァの色彩センスか)で灰にしてしまうのでした。ある日、花嫁連続殺害事件の捜査で警部がジョンを訪ねます。ハリントン社のモデルを務めていたロージー(既にジョンが殺している)が行方不明になっている案件もありました。温室にある焼却炉に興味を持った警部は、「何を燃やすのですか? ああ、剪定した葉や茎でしたか」などとジョンの表情を窺っています。

 その夜、ジョンは寿退社するモデルのアリスをコレクション部屋に呼び出し、お祝いに好きなの1つプレゼントすると彼女を抱き寄せ、挨拶じゃない本気のキスをし相手も応えます。乱れてますね。ジョンはウエディングドレスに着替えさせたアリスの頭に肉切り包丁を振り降ろし、遺体は例の如く焼却炉で焼いてしまうのでした。

 ある日、ヘレンというモデルが売り込みに来ます。行方不明のモデル・ロージーの妹だとジョンに明かし、やたら積極的にアプローチしてきます。ジョンはヘレンと食事して帰宅すると、妻から「今まで女といたの? マザコンだって告白した?」。これにジョンがキレます。変態らしく頭にウェディングベールを被ったジョンは、「君がお荷物だった」と肉切包丁で妻をメッタ斬り! そこへ呼び鈴が鳴り、ベールを脱いだジョンは妻の遺体を放置したまま玄関へ。いや、このシチュエーションで玄関に出ます? 例の警部が、昨夜ジョンに殺されたモデル・アリスの婚約者を連れてきたのです。2人を中に通すジョンの大胆不敵さ。警部の「女の叫び声が聞こえたぞ」にジョンは「テレビです」。流れているのは、ちゃっかりマリオ・バーヴァ監督の『白い肌に狂う鞭』(63年)。ドラキュラ役で有名なクリストファー・リーが、美女を鞭でビシバシ叩く作品です。「ホラー映画がお好きで?」などと語る警部の頭上、階段の柵の間から血染めの手が出ていて(ハラハラ)、血が床までポタポタ垂れています。相当度胸のあるジョンですが、これだけ堂々としてると却って怪しまれないのでしょうか。それにしても階段をちょっと見上げるだけで事件解決するのに、マヌケな刑事さんです。

 さて、翌朝から妻が化けて出ます。黒ずくめの衣装に身を包んだ妻がジョンの行く先々に現れるのですが、一般的な幽霊とは違い、白昼から表情豊かに従業員や客と接しているのです。頭がおかしくなりそうになったジョンは、妻の遺体を焼却炉で灰にしてボストンバッグに詰め、それを川に投棄します。だが帰宅すると、殺した現場の階段に濡れたボストンバッグが! ジョンは土砂降りの外へ出で、ボストンバッグの中の遺灰をばら撒いて雨とともに流してしまうのでした。

 安心したのかジョンは幼い頃に使っていた子供部屋に入り、お坊ちゃまらしく高価そうな鉄道ジオラマなど捨てられずに残っている玩具で遊んでくつろぎます。そこへ新人モデルのヘレンが入ってきたので、ジョンは膝の上に乗せチュウします。そしてコレクション部屋へジョンはヘレンを連れていき、ウェディングドレスを着せ、いつものように肉切り包丁を振り上げます。危うしヘレン! するとヘレンは、それを察知していたかのようにジョンの手首を払いのけます。動きが素人ではありません。ここでジョンの記憶が蘇ります。少年時代にジョンは母親の再婚が気に食わず、寝室にいた継父と母親を肉切り包丁で殺していたのです。ジョンは「再婚して欲しくなかった」とその場に泣き崩れます。妻が「マザコン」と言った意味が解りました。そしてヘレンは潜入捜査官でした。ジョンを警察病院に護送中、隣に座っている妻の幽霊が「これからは精神病院で一生一緒よ」と笑うのでした。

 現代の感性で観ると、妻の幽霊はギャグにしか見えません。それがバーヴァ監督の狙いなのかどうかは、筆者の乏しい読解力では判断できませんでした。バーヴァは1980年に死去し『ザ・ショック』(76年)が遺作となりましたが、彼の助監督で修行を積んできた息子のランベルト・バーヴァが、『デモンズ』シリーズなどで父親をしっかり継承しました。個人的には、古代ザメとタコを合体させた生物兵器が登場する『死神ジョーズ 戦慄の血しぶき』(84年)がバーヴァ・ジュニアのベスト作品です。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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