もやもやレビュー

この現実から目をそらさないで。『若き見知らぬ者たち』

『若き見知らぬ者たち』 10月11日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

今回紹介するのは、自主映画として完成させた『佐々木、イン、マイマイン』(20) が若者から圧倒的な支持を集め、新人賞や海外の映画祭を賑わせた内山拓也監督の、商業長編デビュー作となる『若き見知らぬ者たち』。

こんなに胸が苦しくなる作品を観たのはいつぶりだろう。なぜ不幸の連鎖は断ち切ることができないんだろう。元はごく普通の家族だったはずなのに1つのトラブルからまた1つ、また1つと解決が難しい問題が絡み合っていく。糸が絡みあってほどきたくてもほどけなくなってしまったような感覚が続く...そんな作品だった。

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昼は工事現場、夜は場末のカラオケバーで働く彩人(磯村勇斗)は、自宅と仕事場を自転車で往復するのがほぼすべての毎日だった。家では難病を患う母の麻美(霧島れいか)が待っている。自分のための時間や余裕はない。休みも娯楽もなく労働に明け暮れるのは、亡き父・亮介(豊原功補)が遺した借金を返済するためだ。若かりし頃の両親が開いたカラオケバー「花火」は、かつて一家が夢見た幸せな未来の証であり、どんなに生活が厳しくても手放すことはできなかった。
弟、壮平(福山翔大)は兄と共に家計を支えながら父の手ほどきで始めた総合格闘技に人生を懸けている。

本作の魅力は、脚本の持つリアリティと空事や空耳が入り混ざることでより現実が濃く色めき立って見えるところにあった。
鳴ってもいない銃声がふとした瞬間に響き渡ることで現実で持つべき危機感がグッと増強される。これが劇場だとより鮮明に身体に入り込んでくる。
逃げ出したい現実から逃げずに日々戦っている彩人は誰よりも強い人間だった。護りたいと思える人を全力で護っている姿が鑑賞後も忘れられない。暴力以外にも人を傷つけるすべはたくさんある世の中で、どんな風に生きていくべきなのか考えさせられた。

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ゆっくりゆっくり舐め回すようにカメラが動き、少しずつ部屋の景色だけではなくその時起こったことが音で伝わり人間関係までもが見えてくる。
全てを映さず全てを語る日常のシーン。かと思えば、後半の総合格闘技のシーンでは余すことなくリングで起こっている一部始終を見せられた。
ドラマパートとスポーツパートを作ることで見せずに語ると見せて語るを1つの映画の中に上手く落とし込めていたように感じた。

誰しもが生活の中で感じるフラストレーションや理不尽とどうやって付き合いながら立ち向かっていこうか考えさせられた。また、きっと同じ気持ちを抱える仲間はいると思わせてくれる作品だ。

(文/杉本結)

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『若き見知らぬ者たち』
10月11日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太 ほか
配給:クロックワークス

2024/日本・フランス・韓国・香港合作/119分
公式サイト:https://youngstrangers.jp
予告編:https://youtu.be/I-ZhVaFbA9A
© 2024 The Young Strangers Film Partners all rights reserved.

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