75年前に描かれた今『オール・ザ・キングスメン』
- 『オール・ザ・キングスメン (1949) (字幕版)』
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アメリカの片田舎、実直な役人のウィリーは幾度かの知事選に出馬し、持ち前の正義漢から人気を高めやがて当選。しかし絶大な権力を手に入れたことで変貌していく。
『オール・ザ・キングスメン』は、権力欲に溺れ腐敗していく人物を描いた社会派映画で、1949年のアカデミー賞最優秀作品賞を受賞しているのだが、日本公開はかなり遅れての1976年。双葉十三郎氏の映画評集『ぼくの採点表III 1970年代』(トパーズプレス)では「今日まで日本で公開されなかったのは硬派の政治映画は一般受けしないという業者の判断が主因であろう」と推測されているが、政治的圧力を受けてリアルタイムでは公開されなかったと断定している別の資料もある。
しかし27年も遅れたからといって、古臭い映画として受容されたかというとそんなことはなかったようだ。『オール・ザ・キングスメン』日本公開は1976年9月25日。その約2ヶ月前の7月27日にロッキード事件で田中角栄元首相逮捕。あまりにも主人公のあり方が角栄氏そっくりで話題になったらしい。
そこからさらに48年が経過した現在、映像演出文法的にはやはりさすがに古さを感じてしまうのは仕方ないのだが、先日の衆議院選挙にまつわるあれこれを見ていると、この映画の時代から何も変わっていないよな、と呆れるとともに、今も十分通じる映画だな、とも感じるのである。極めてスタンダードな映画だが、スタンダードならではの強度があるというか。
が、異なることもある。劇中でウィリーはあれこれ手を回してスキャンダル等々を揉み消すことで人気を維持しているわけだが、現実には全然揉み消しに成功していないにも関わらず、あからさまに腐敗しているであろうあの人この人を熱狂的に、狂信的に、あるいは相当な無理筋な理屈でもってなお支持する層も少なからずいたりするのである。
仮にウィリーの揉み消し大失敗という展開だったとして、それでも熱狂する民衆が描かれていたとしたら、『オール・ザ・キングスメン』は嘘くさい映画として評価が下がり、アカデミー作品賞なんて獲れなかったのではないか。こういうのが事実は小説よりも奇なりということか。
なお、本作はロバート・ペン・ウォーレンによる原作『すべて王の臣』(白水社)とはかなり異なるとのこと。2006年のリメイク版『オール・ザ・キングスメン』はより原作に忠実なようだが、評価は本作ほど高くはない。そのほか、日本公開はないもののアメリカとソ連でそれぞれテレビドラマが作られたり、ラジオドラマや演劇版、さらにはグランドオペラ版も上演されており、普遍的なテーマを持つ作品であることは間違いないだろう。普遍的だから権力者は腐敗しても仕方ない、ということではもちろんないのだが。
(文/田中元)
文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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