いびつな外国人労働政策が生んだ「ボドイ」たち ベトナム人不法滞在者の生態と日本の労働現場

- 『北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』
- 安田 峰俊
- 文藝春秋

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近年、世間でたびたび取り沙汰される在留外国人問題。問題とされている外国人の国籍はさまざまだが、その中で一定の割合を占めるのが「ボドイ」と呼ばれる"やんちゃ"な背景を持つ在日ベトナム人だ。彼らの多くは職場からドロップアウトした元技能実習生や、オーバーステイ化した元留学生だという。
『北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』(文藝春秋)は、著者・安田峰俊氏がそんなボドイたちに体当たりで取材した渾身のルポルタージュである。安田氏は、日本のいびつな外国人労働政策がボドイを生んだと語る。
「少子高齢化とデフレ経済のなかで、日本の労働現場は安価な労働力を大量に必要としている。(中略)ベトナム人の大多数は出国前に多額の借金を背負っていることから、いわば『年季奉公』に近い状態に置かれている。ゆえに職場を逃亡する人も多く、コロナ禍以前の二〇一八~二〇一九年には毎年九〇〇〇人以上が姿を消していた」(本書より)
そして逃亡後、生活が貧しく身分が不安定な流れ者と化すのである。著者によれば、日本人の多くに根付いている「外国人犯罪=中国人犯罪」というイメージは、実際のところすでにベトナム人に取って変わっているという。
さて、どこの国にいる在留外国人にも言えることだが、ボドイも同胞のツテを頼って特定の地域に集まる傾向がある。日本国内でとくにボドイのコミュニティが多いのは、群馬県や埼玉県などのいわゆる北関東だ。著者は彼らに直接突撃取材をしているのだが、ボドイが住む場所にはある共通点が存在する。
たとえば換気扇付近からインディカ米や豚骨などを調理した匂いがする、夜間や雨の日でも屋外にスウェットやジャージが干しっぱなし、なぜか「金麦」の缶が大量に捨てられているなど、などである。これら複数の特徴が観察できる部屋は、ボドイが住んでいる可能性が高い。
本書では、ボドイたちが犯す犯罪についてスポットを当てている。第1章で紹介されているのは、無免許運転で死亡事故を起こした元技能実習生の女性だ。彼女は裁判で「はい」や「悪かったです」など、明らかにその場しのぎの発言を繰り返し、裁判官や検察官のみならず弁護士までもが辟易していたという。そして質問が終わり被告人席に戻ると、目からボロボロと涙を流したのだ。
「いまさら泣くのなら、もっとちゃんとした態度で裁判に臨めばいいのに。(中略)とはいえ、彼女のような振る舞いは、私がこれまで取材した在日ベトナム人の技能実習生やボドイたちの姿を思い浮かべてみると、比較的見慣れたものでもあった」(本書より)
どうやら彼ら(彼女ら)は自分よりも立派そうな人から難しいことを言われると、とにかく沈黙するか、「ごめんなさい」「がんばります」といった定型文を呪文のように唱えてやり過ごしてしまうらしい。しかし、そうなるのには理由がある。発展途上国の中でも決して優秀とは呼べない人たちが技能実習生になりやすく、またそういった人たちを丸め込んで"安価な労働力"として働かせているのが外国人技能実習制度なのだ。
もっとも、ボドイの誰もが凶悪犯罪に関わるわけではない。フードデリバリーのアルバイト中に自転車で高速道路に侵入したり、薬物に手を染めたりといったものもある。もちろん自転車で高速道路走行も薬物も、立派な犯罪ではあるのだが......。
また、日本各地のボドイに顔が利き、ボドイが絡むトラブル解決やギャンブル絡みの拉致・監禁・暴行などに関わる「群馬の兄貴」なる人物もいる。兄貴の管理する「兄貴ハウス」には多くのボドイがかわるがわる暮らし、ひとつのコミュニティを築いていたが、2022年時点で兄貴ハウスはすっかりもぬけの殻になっていたそうだ。
そして現在、ボドイたちは北関東から大阪へ活動の場を移しつつある。
「大阪市内で暮らすベトナム人は二〇二一年末時点で一万九一二六人で、最近一〇年で二〇倍増という驚異的な増加を示している(ボドイは転居届を出さないので、実際のベトナム人数はもっと多い)。なかでも急増しているのが西成区と生野区だ」(本書より)
どうやら東京に比べて警察官が少ない点や、街の気質がアジア諸国に似ている点、もともと在日コリアンや在日中国人が多いためベトナム人もなじみやすい点などが、大阪に集まる理由のようだ。もちろん、仕事や遊び歩く先が多いことも理由のひとつだろう。
技能実習生や留学生として来日し、逃げ出した後も日本に潜伏し続けるボドイたち。彼らは逞しくしぶとく日本にしがみついているように見えるが、著者によると、あと15年ほど経てばベトナムと日本の経済格差が縮小し、ボドイたちは日本社会から消えるという。しかし、彼らがいなくなっても、代わりに他の国からの不法滞在者が増えるだけだろう。
日本の労働現場の形を変えない限り、ボドイのような外国人は生まれ続ける。本書を読むと、ただ「移民反対」と叫ぶだけでは解決できない問題があるということに気付かされる。
