もやもやレビュー

淡く切ないひと冬の恋『ぼくのお日さま』

9/13(金)より全国公開

『僕はイエス様が嫌い』でデビューした奥山大史監督の最新作。この監督はカメラワークが独特で初めて見るような視点から物事をみている。それは斜めだったり下からだったり、新しい視点から見せるという手法で観客に新たな発見の一歩目の後押しをしてくれていることに気づき驚かされる。
そういった独特な画角や心理描写が奥山監督の作品の魅力だと思う。

吃音をもつホッケー少年・タクヤ(越山敬達)が「月の光」に合わせフィギュアスケートを練習する少女・さくら(中西希亜良)の姿に、心を奪われてしまう。ある日、さくらのコーチ荒川(池松壮亮)は、ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て何度も転ぶタクヤを見つける。タクヤの恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習をつきあうことに。しばらくして荒川の提案から、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめることになり......。

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登場人物が少ないからこそ1人1人の心の葛藤が丁寧に描かれていた。フィギュアスケートを練習するタクヤの姿を、我が子を応援するかのような気持ちでいつのまにかみていた。

さくらが荒川に寄せる思いは恋心なのか憧れなのか。
子どもにはまだわからない大人の苦悩を抱える荒川の姿も繊細に描かれていた。荒川の秘密を知った時の周囲の反応もリアルだった。リアルだからこそ心はざわついてヒリヒリするようだった。

人には誰にでも悩みや秘密がある。身体的なことだったり、目には見えない問題だったりその形は様々でも自分だけではないんだと気づける作品だった。そして、人間関係は時間が解決してくれることもあれば、自分が動くことで解決することもある。

解決の方法は人の数だけある。
言葉での説明が劇中であるわけではないのに映画をみることで感じ取れることがたくさんある作品だった。ラストシーンも奥行きがあってとても素敵だった。映画のこの空気感、静かで暗い映画館の雰囲気でじっくり観て欲しい。

(文/杉本結)

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『ぼくのお日さま』
9/13(金)より全国公開

監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩ほか
配給:東京テアトル 

2024/日本映画/90分
公式サイト:https://bokunoohisama.com
予告編:https://youtu.be/rzmKFW5Uf1c
©2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

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