「男らしさ」は誰が作った? 広告に潜むジェンダーの裏側を解説

その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地 (朝日新書)
『その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地 (朝日新書)』
小林 美香
朝日新聞出版
990円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

 「ジェンダー差別」とは、性別にもとづいて不当な扱いや差別を受けることを指します。女性に対する性差別に目が向けられることが多いかもしれませんが、男性もまた「男性はこうでなくてはいけない」という偏見や差別にさらされている場合があります。

 今回紹介するのは、小林美香さんが著した『その〈男らしさ〉はどこからきたの? 広告で読み解く「デキる男」の現在地』という書籍です。

 「広告の中で『男らしさ』がどのように表現されているのかということを、社会的な背景や歴史的な文脈に照らし合わせながら分析し、その表現の由来を『どこからきたの?』」(本書より)と問いながら探る一冊です。

 これまで国内外で写真やジェンダー表象に関するレクチャーやワークショップ、展覧会などを企画してきた小林さんだけあって、本書ではコーヒーやビールなどの飲料から、スーツや下着、美容用品、脱毛といった日用品、サービスの広告、公共広報物、選挙ポスターに至るまで、さまざまな種類の広告が取り上げられています。

「『男らしさ』表現を意識しながら観察して読み解くことによって、『デキる男』のイメージは、広告が設定する文脈の中でさまざまな視覚効果を駆使して作られた『虚構(フィクション)』に過ぎないことが見えてきます。このことを明らかにし、その中に含まれている思い込みや期待のようなものをときほぐしていく」(本書より)

 たとえば、飲料の広告において、起用されるタレントが男性に偏っていると言えるのが缶コーヒーです。これまでコーヒーのCMでは、「働く人」「仕事」を男性中心に据えて描くことで、ブランドパーソナリティを形成してきた例が数多く見られます。

 もともと19世紀の欧米で工場労働者の男性たちが、活力を得るためにコーヒーを日常的に飲むようになったという背景があるとされますが、戦後日本の消費社会でも缶コーヒーやインスタントコーヒーは「男らしさ」と結び付けられたものとして宣伝されてきました。

 ビール広告においても、俳優・三船敏郎による「男は黙ってサッポロビール」や、国際ジャーナリスト・落合信彦の活躍する姿を描いたアサヒのスーパードライなど、「男らしさ」を打ち出した表現が作られてきました。

 しかし、コロナ禍を経て人々の働き方やライフスタイルが大きく変容している現在、「『男らしさ』と結び付けられ、称揚されてきた社会的成功の実態とは何だったのかを振り返って考えるべきなのかもしれません」(本書より)と小林さんは記します。

 ほかにも本書では、「都会で働く短髪でスーツ姿の若年層および中年層のオフィスワーカー」「データやグラフを手にしたり指差したりする」「身体鍛錬としてのスキンケア・ヘアケア」「ホモソのマッチョ芸人たち」など、広告におけるステレオタイプな男性描写を24パターンに分類。特にメンズ美容や選挙ポスターにおけるジェンダー表現については、1つの章立てで詳しく解説しています。

「都心の景色は『ポスターや看板、デジタルサイネージに塗りこめられた家父長制』」(本書より)だという小林さん。ふだん何気なく眺めている街中の広告も、本書を読んだ後はこれまでとは少し違った見方が生まれるかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム