もやもやレビュー

家を守るために、男は一線を越えた―― パク・チャヌク監督が描く"就活サバイバル・スリラー"『しあわせな選択』

『しあわせな選択』 3月6日(金) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開

斬新で大胆、そしてチャレンジングな設定を、誰もが夢中になるエンターテインメントへと昇華させる----。そんな韓国映画の真骨頂が、またひとつ発揮された快作が誕生しました。

韓国を代表する巨匠パク・チャヌク監督(『オールド・ボーイ』『別れる決心』)による本作は、ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門への出品を果たし、さらにトロント国際映画祭では国際観客賞を受賞するなど、すでに高い評価を獲得しています。

sub2.jpg

製紙会社に25年間勤め上げ、苦労の末に買い戻した理想のマイホームで、妻ミリ(ソン・イェジン)と子どもたちと幸せに暮らしていたマンス(イ・ビョンホン)。しかし、会社の買収劇によって突如リストラされ、彼の人生は一気に暗転します。再就職活動は思うように進まず、アルバイト生活のなかで住宅ローンの滞納や家の売却という現実に直面。家族を守り、愛する家を手放さないため、追い詰められたマンスは、好調なライバル企業への就職を狙いますが、そこでも無情な門前払いを受けてしまいます。
そして彼は、「ライバルがいなくなれば仕事が手に入る」という、あまりにも危険な結論へとたどり着き、狂気的な行動に踏み出す決意を固めるのです。

sub3.jpg

本作では、中年になってから突然始まる過酷な就職活動が描かれます。それはすべて、家族との生活を守るために必死にもがく一人の父親の姿でもあります。しかし、その必死さが引き起こす犯罪行為は、不気味さを帯びながら、「このままでは済まない」という不穏な予感を観客に抱かせ、物語は緊張感を増しながら進んでいきます。

『しあわせな選択』の原作は、ドナルド・E・ウェストレイク(2008年没)による小説『斧』です。彼はベストセラー作家ではありませんでしたが、一定の部数を安定して売り上げ、出版社に利益をもたらす"ミッドリスト作家"として知られていました。本作が映像化されるまでには、実に長い年月と紆余曲折があったといいます。

sub5.jpg

タイトルにもなっている「斧」は、一見すると凶器を連想させますが、本作で実際に斧が凶器として使われることはありません。ただし、注意深く観ると、こっそり斧が映り込むシーンが用意されているので、ぜひ探してみてください。なお「斧」には、薪を割る道具という意味のほか、ジャズ用語で「楽器」、さらには「クビにする」という動詞の意味もあります。こうした言葉の多義性を知ったうえでラストを迎えると、物語の皮肉と深みがより一層際立つはずです。

韓国映画ならではの社会性とスリルが融合した"就活サバイバル"の行き着く先を、ぜひ最後まで見届けてほしい一本です。

(文/杉本結)

***
sub1.jpg

『しあわせな選択』
3月6日(金) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開

監督:パク・チャヌク
出演:イ・ビョンホン、ソン・イェジン、パク・ヒスン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン、チャ・スンウォン
配給:キノフィルムズ

2025/韓国/139分
公式サイト:https://nootherchoice.jp
予告編:https://youtu.be/O-TOXLJsY78
©2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム