村上春樹の短編がまさかのアニメ化『めくらやなぎと眠る女』
『めくらやなぎと眠る女』 7月26日(金)よりユーロスペース他全国ロードショー
村上春樹の作品をまさかアニメーションとして鑑賞する日がくるとは思いもしなかった。
村上春樹のファンのことをハルキストと呼ぶほど熱烈なファンがたくさんいる。新刊がでれば話題となるし、毎年ノーベル賞への期待というニュースを耳にする。そんな村上春樹が1981年から2002年までに書いた6つの短編を元に本作は製作された。
鑑賞して驚いたのは、本来別々の物語であったはずの6作品が地続きになっているかのように鑑賞できた点である。この作品の架け橋となっていたのが実際に登場する場面は少ない猫(ノボル・ワタナベ)の存在だった。
冒頭、2011年の大地震の描写から物語はスタートする。東日本大震災のことだった。これは原作では阪神・淡路大震災をモチーフに書かれていた。だからなのか現代よりひと昔前の昭和のお父さんの象徴のような片桐というおじさんが登場する。このなんとも冴えないおじさんの目の前に突然現れたのは巨大なかえるだった。このかえるは自分を『かえるくん』と呼ぶようにいうと2人で力を合わせて『ミミズくん』を退治すると片桐に告げる。
このミミズくんというのは地震のことだった。最近では『すずめの戸締り』でも地震を起こし悪さをするものをミミズと呼んでいた。地下深くで眠るミミズを環境破壊により怒らせることで地震は発生しているということだった。
果たして、かえるくんと片桐はミミズくんを退治することが出来るのか?
この話と並行して進んでいくのが東日本大震災のあと話をしなくなり突然旦那の元からいなくなってしまうキョウコと突然妻が家からいなくなった小村の物語。短編の中でも物議を醸した、『バースデイ・ガール』という物語がキョウコの若かりし頃の思い出話としてまさかのアニメーション化されていた。20歳の誕生日の日、バイトをしていると偶然にもそれまで会うこともなかったオーナーの部屋へ夕食を運ぶことになりオーナーから「たった1つどんな願いでも叶えてあげよう」と言われる。
キョウコが願ったコトとは一体なんなのか?知りたくていつの間にか前のめりになって鑑賞していた。
キョウコが突然いなくなった理由もわからない。そして、旦那の小村は友人から頼まれた箱を友人の妹に届けるため北海道までいく。
箱の中身は一体なんなのか。映画の中には、答えを教えてくれない謎が所々に存在して、その答えが知りたくて次の話、また次の話と鑑賞していたように思う。
アニメーションならではの視点からの描き方がとても面白かった。特に、地面から空を見上げるようなアングルはなかなか観ることも少なく新鮮であると同時に斬新でもあるように感じた。
大人が楽しむアニメーション映画となっていた。
(文/杉本結)
『めくらやなぎと眠る女』
7月26日(金)よりユーロスペース他全国ロードショー
監督・脚本:ピエール・フォルデス
原作:村上春樹(「かえるくん、東京を救う」、「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「UFOが釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る女」)
声の出演:ライアン・ボンマリート、ショシャーナ・ビルダー、マルセロ・アロヨ、スコット・ハンフリー、アーサー・ホールデン、ピエール・フォルデス
配給:ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー、レプロエンタテインメント
原題:「Saules Aveugles, Femme Endormie」
英語題:「Blind Willow, Sleeping Woman」
2022/フランス、ルクセンブルク、カナダ、オランダ合作/109分
公式サイト:http://www.eurospace.co.jp/BWSW
予告編:https://youtu.be/d2z2swfPexA
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