「150%の確率でヤラれる」 命がけで歩いて取材した"世界の危険な街"の実態
- 『世界中の「危険な街」に行ってきました』
- 嵐 よういち
- 彩図社
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世界には、日本が承認しているだけでも195の国が存在する。海外旅行先として人気の国々がある一方で、治安などの問題から渡航に注意が必要な地域も多い。今回紹介する書籍『世界中の「危険な街」に行ってきました』(彩図社)を読むと、日本では考えられないような"危険"と隣り合わせの国々の実態が見えてきた。
本書の著者である嵐よういち氏は、これまで約70カ国を渡り歩いた海外渡航経験の豊富な人物。治安が悪いと言われる世界中の国々を中心に訪れ、その体験を多くの著書にまとめている。
嵐氏が足を運んだ街は、どれも危険なエリアとして知られ、渡航はあまり推奨されていない。ところが、決して日本人になじみのない国ばかりというわけでもないのだという。
例えば、2010年にFIFAワールドカップが開催された南アフリカ共和国がそのひとつだ。国際的なイベントを開くほどの国であっても、治安が良いとは限らない。実際、2010年ごろに南アフリカで起きた殺人件数は1万5940件。同時期に日本で発生した殺人件数の約15倍の数字だ。南アフリカの人口は日本よりも断然少ないため、いかに犯罪発生率が高いかがわかる。
そんな南アフリカの中でも、旅行者から"リアル『北斗の拳』"と呼ばれているエリアが「ヨハネスブルグ」である。
「ある人は言う。
『ヨハネスブルグのダウンタウンを歩けば150%の確率でヤラれる』と。
150%というのは行きに1回やられ、帰りにもまた強盗に襲われる可能性がかなり高い、つまり1.5回ヤラれるということである。ダウンタウン、特にヨハネスブルグ駅周辺を歩けばこれはただのジョークではなく、信憑性があるものだとわかる」(本書より)
ヨハネスブルグのダウンタウン近くに、「ヨーベール」という黒人居住区があるという。"危険エリア"としてガイドブックにも載るほどの街だが、嵐氏は2004年と2009年の2回にわたり足を運んでいる。
彼が2009年にヨーベールを訪れたとき、事件は起きた。街中を歩いていた嵐氏が銀行やスーパーマーケットなどが立ち並ぶ商店街エリアに差しかかると、突然8人組の男たちに行く手を阻まれたのだ。
「これはヤバイ。奴らが暴力で襲いかかってくるのか、カラかいながら威嚇して財布を奪おうとするのかわからない。俺は焦りながら奴らの脇をすり抜けようとした。だが、ひときわ体の大きな男が正面を塞いだ。奴は殺気立った目つきで声を上げた。
『お前はここで何してんだよ!』」(本書より)
突然怒鳴られた嵐氏だったが、「街を歩いているだけだよ」と意外にも冷静に言い返す。すると今度は、「少し金持っているか?」と言いながらひとりの男が嵐氏のポケットへ手を伸ばしてきた。
「俺はその手を振り払い、道の反対側に駆け足で逃げた。早足で10メートルほど進み、振り返ると、奴らは敵意のある凶暴な目で睨んでくるが追いかけてはこなかった」(本書より)
嵐氏は運よく難を逃れたが、ヨハネスブルグでは旅行者が突然暴力を振るわれ犯罪に巻き込まれることはめずらしくないという。まさにマンガ『北斗の拳』(集英社)の世界を彷彿とさせる、"世紀末"世界のような危険地域だ。
「8人の襲撃をかわしたものの、しばらく俺の動悸は治まらなかった」(本書より)
治安の悪さで有名な街があるのは、アフリカの国だけではない。世界遺産のマチュピチュで知られる南米の国・ペルーには、"世界一の泥棒大国"と言われた首都「リマ」が存在する。
嵐氏は2011年にリマへ訪れた際、地元の少年強盗団への取材を経験している。インタビューに答えたのは、7人の少年と彼らの相談役だという男性ひとりだ。話を聞くと、少年たちは学校に行っておらず家族もいない。なかには、住む場所がなく洞窟で暮らしているという少年もいた。
嵐氏いわく少年犯罪集団の多くは、ドラッグなどで恐怖心を和らげてから犯罪に及ぶことが多いという。そしてそれは、リマの少年強盗団である彼らも同じだ。
インタビューの途中で嵐氏は、少年たちに「夢はあるか」と訊ねた。すると彼らは、「車、家、バイクを盗むこと」「カードを盗んで暗証番号を聞くこと」だと答える。
「俺はこの答えに激しい衝撃を受けた。
普通だったら『ビジネスマンになりたい』『結婚したい』『サッカー選手になりたい』と答えるだろう。彼らは犯罪そのものが夢になってしまっているのだ」(本書より)
取材を終えた嵐氏が強盗団の少年たちに抱いた印象は、「非常に気さくで、ごく普通の少年」というものだった。一見すると犯罪者には見えない子どもたちが盗みによって生計を立てているという事実は、"泥棒大国"とまで言われたリマの治安の悪さを顕著に表しているといえるだろう。
嵐氏が自ら危険地域へ足を運び、各地の様子を詳細に記した書籍『世界中の「危険な街」に行ってきました』(彩図社)。治安の悪いエリアに行く予定がある人もそうでない人も、本書を通じて世界各国の治安の実態を学んでみてはいかがだろうか。