もやもやレビュー

抱えているものがあるなら人に話してみよう。『パリの調香師 しあわせの香りを探して』

パリの調香師 しあわせの香りを探して(字幕版)
『パリの調香師 しあわせの香りを探して(字幕版)』
グレゴリー・マーニュ,フレデリック・ジューヴ,グレゴリー・マーニュ,エマニュエル・ドゥヴォス,グレゴリー・モンテル,ギュスタヴ・ケルヴェン
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レモンとシナモンの香りを同時に嗅ぐとコーラの香りになるそうです。
本作は2019年のフランス映画で、日本では2021年1月に公開になりました。

運転手のギヨームは、交通違反の点数が重なり、職を失うピンチに。そこで、上司に頼んで、新たにアンヌ・ヴァルベルグという顧客を紹介されます。

アンヌは調香師をしていて、とても気難しい性格でした。ギヨームに対しても同様で、例えば、彼の運転する車内でたばこの銘柄を言い当て、「私を乗せているときは禁煙よ」といきなり煙草をとって投げ捨てます。また、仕事先で宿泊するホテルに着くやいなや、洗剤の匂いが気になるからと持参したシーツの張り替えを指示したり。きわめつけに、アンヌの自宅前で彼女のハンドバッグがひったくりに狙われ、ギヨームが犯人に飛びかかってバッグを取り返すも、「飛びかかるなんてどうかしてる」と非難。

これに対し、ギヨームは、ありがとうもお願いも言えないなんてもう御免だと半ギレするも、離婚調停中で10歳の娘の共同親権を獲得するために、この仕事を投げ出すわけにもいきませんでした。

そして、アンヌから仲直りの仕事だとギヨームが指名されます。再び行動を共にする中で、アンヌから、ディオールの香水を調合した経験や、忙しさとストレスから嗅覚を失ったこと、またそのことを隠して仕事をしたせいで第一線から退いてしまったのだと打ち明けられます。

ギヨームもアンヌに、娘の10歳の誕生日プレゼントを相談します。娘の希望通りにして機嫌を取るのではなく、自分が娘に知ってほしい所に連れて行ってはどうか、何十年先も心に残ることを、と助言をしてもらいます。そのお陰で、父娘共に楽しい一日を過ごすことができます。

こうして不器用ながらもアンヌとギヨームは、交流を深めていきます。
誰にでも人に触れたくないこと、話したくない過去はあると思います。が、つらいまま蓋をし続けるより、ふと誰かに打ち明けることで気が楽になったり、そのことがきっかけで自らが変われたり得るものがあったり。抱えているものがあるなら人に話してみよう、そんな風に思わせてくれる本作です。
アンヌとギヨーム、二人の関係性の変化もそうですが、"調香師"という特殊な仕事を垣間見られるのもまた一興です。

(文/森山梓)

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