もやもやレビュー

家族の形を考える『大いなる不在』

『大いなる不在』 7月12日(金)よりテアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

今年鑑賞した作品の中でも群を抜いて素晴らしい邦画に出会うことができたので紹介したい。

幼い頃に自分と母を捨てた父が警察に捕まった。知らせを受け、息子である卓(たかし)は久しぶりに父の元を訪ねるが、そこには認知症で別人のように変わりはてた父の姿があった。そして、同居していたはずの父の再婚相手の義母は行方不明になっていた。いったい彼らに何があったのか―。

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サスペンスやミステリーの要素を持ちながら展開していくストーリーと並行して、ヒューマンドラマも描かれている。それは身近にも起こり得るようなリアリティも持ち合わせているのでどこか他人事とは思えない気持ちになる。さらに森山未來演じる卓が役者として舞台に立ち踊る姿には芸術性もあり、冒頭とラストシーンでは同じものを見ているはずなのに全く違う受け止め方をしている自分がいた。

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認知症のリアルが本作では描かれていた。自分がどの登場人物に寄り添いながら鑑賞していくかによっても作品の受け止め方が全く異なってくるように思った。
雑音のような不快な音が常にバックから聞こえてくる。その落ち着かないザワザワした不快な感覚がずっと心の中で燻っていた。そして、ワンカットごとの間に余白のような間の取り方が絶妙で、なにかゆっくり考えることができる時間が映画を観ながら同時に用意されているかのようだった。

認知症にもしも自分がなったら、自分のパートナーがなったら、親がなったら、義理の親がなったら...そのもしもを1つ1つ丁寧に考えることができる作品だった。
静かな場所でゆっくりと観て考え、誰かと話をしたくなるそんな作品だ。

(文/杉本結)

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『大いなる不在』
7月12日(金)よりテアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

監督・脚本・編集:近浦啓
共同脚本・監督補:熊野桂太
出演:森山未來、真木よう子、原日出子、藤竜也
配給:ギャガ

2023/日本映画/133分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/greatabsence/
予告編:https://youtu.be/CaBOjgcgWPA
©2023 クレイテプス

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