もやもやレビュー

予測不能な驚きを体感せよ『スリープ』

『スリープ』 6月28日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開

今回紹介するのは韓国のホラー作品。本作はユ・ジェソン監督の⻑編監督デビュー作にして、第76回カンヌ国際映画祭批評家週間に選出された。『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞作品賞、監督賞の受賞をし一躍世界中の注目を浴びたポン・ジュノ監督も「ここ10年で観た中で最もユニークかつ恐ろしい映画。平凡な日常の空間で予測不可能な物語が繰り広げられる、スマートな監督デビュー作。ぜひスクリーンで味わってほしい。」と太鼓判を押す作品だ。

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出産を控え、幸せな結婚生活を送るヒョンス(イ・ソンギュン)とスジン(チョン・ユミ)。ある夜、隣で眠る夫ヒョンスが突然起き上がり「誰か入ってきた」と呟いた。その呟きに呼応するように家を覆い尽くす不穏な気配......。翌朝、下の階に越してきた住人から「明け方の騒音が1週間も続いて、我慢できない」と相談をされるも全く身に覚えがなかった。少しの違和感を抱きながらも、夜を迎えたその日から眠りにつく度にヒョンスは人が変わってしまったかのように奇行を繰り返す。頬を掻きむしる。生魚を丸呑みする。窓から身を乗り出す。その異常行動は日を追う毎にエスカレートしていく。得体の知れない"それ"に恐怖を感じ、怯えながら夜を過ごす夫婦は睡眠クリニックの受診を決意するが、スジンの母から 超自然的な力に頼るべきだと、巫女から授かった御札を渡される。果たして "それ"は医学で克服できるものなのか、それともー。

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なぜ韓国のホラーってここまで怖く出来上がるのでしょう?と毎回見るたびに思って数日は寝るのが怖くなるような恐怖があるのにまた見たくなってしまう。
もしも本当に自分の身に起こったら恐怖以外の何者でもない出来事だが、一歩引いたところから見ている感覚なのでたまに少し滑稽にも思えるシーンがあったりして病みつきになるように思う。

邦画だとシリアスなシーンの連続で音や絵に驚かされて、そこに笑えるシーンがないので私の場合はかなり身構えてジャパニーズホラーは見なければならない。
本作では、普段そこからはみないよね?というようなアングルからのショットにドッキリしたりするのだが、そこに遊び心も感じたり新しい感性に触れて楽しい気持ちにもなった。お札を部屋中に貼りまくるシーンでは、よくこれだけ貼ったなと冷静に鑑賞していると登場人物がプロジェクターでまさかの今まで起きたことを分析してプレゼンを始めた。その後、本気で感情を爆破させればさせるほど、なんだかこのシーンが面白くて見たことのない展開、先が読めないところが素晴らしかった。

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夜が訪れる恐怖に怯える妻を『82年生まれ、キム・ジヨン』や『トガニ 幼き瞳の告発』でその確かな実力を披露してきたチョン・ユミが演じ、無意識の異常行動をきっかけに、眠ることに恐怖を抱く夫を『パラサイト 半地下の家族』、『最後まで行く』のイ・ ソンギュンが務める。
人間の三大欲求の一つ、睡眠。日常にある最も安静な時間だが、その一方で意識を失った無防備な状態でもあり、もっとも死に近い時間ともとれる。もしも、その時間を得体の知れない"それ"に脅かされたら?という発想を基に、「予測不能」 な驚きと「自身にも起こりうるかも知れない」共感を観客へ提示する本作。寝るのが少し怖くなるかもしれない。

(文/杉本結)

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『スリープ』
6月28日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開

脚本・監督:ユ・ジェソン
出演:チョン・ユミ、イ・ソンギュン
配給:クロックワークス

英題:SLEEP
2023/韓国/94分
公式サイト:https://klockworx.com/sleep
予告編:https://youtu.be/qLAKfc4WQes
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