もやもやレビュー

小さな声に耳をすます『52ヘルツのクジラたち』

『52ヘルツのクジラたち』 3月1日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他全国公開中

原作は、2021年に本屋大賞に輝いた町田そのこのベストセラー小説「52ヘルツのクジラたち」。〈52ヘルツのクジラ〉とは、他の仲間たちには聴こえない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラのこと。
家族から搾取されて傷ついた辛い記憶を持つ女性が、虐待を受けている少年を助け、自らを救った人物を思い出す様子を描き出す本作。監督は『八日目の蝉』の成島出。共演は志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、余貴美子、倍賞美津子らが名を連ねている。

サブ2.jpg

本屋大賞に選ばれた時に原作を読んで、映像化するには難しそうなテーマだなと感じていた。
本屋大賞をとる作品は映像化されることが多い傾向にあるので、毎年絶対にチェックしている。そして読後、毎年のようにこれは映像化するのは難しいだろうと思う。だけど名だたる監督が今までにない表現や撮影方法に挑戦してくれる。
原作が骨太なしっかりとしたテーマの上に、技術のある作者が作り上げた芸術作品のようなものばかりだからこそ、本を読むのは楽しいし時には苦しいし、涙する。最近では誰で実写化されたらと1人妄想しながら読んでいる。そんな本屋大賞受賞作から、またしても今見るべき傑作が誕生した。

アザー1.jpg

今回、製作段階から主演の杉咲花が監督や製作陣達の輪に入り本作を作り上げたそうだ。難しい役柄だけに、緊張の糸を弛ませることなく張りつめている状態を保つことはどれほど大変だったのだろうか。
杉咲花が演じた貴瑚は、楽しく笑い、心から本音を言えるシーンが少ない役だったからこそ彼女が幸せになるように観客は祈りながら見守っているような作品だった。志尊淳演じるアンさんのように小さな声を聞き取れる人ってこんなにも素敵なんだということに気付かされた。

多様性という言葉がよく使われる時代に、まずは他者を知ることからはじめてほしい。新しい季節、新しい出会いの時期にこそみてもらいたい一本だ。

(文/杉本結)

***
サブ1.jpg

『52ヘルツのクジラたち』
3月1日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他全国公開中

監督:成島出
原作:町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社)
出演:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李/余貴美子、倍賞美津子
配給:ギャガ

2024/日本映画/136分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/52hz-movie/
予告編:https://youtu.be/Z2ibBQcZGII?si=W7n9DVLkWfAFuS_T
©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム