もやもやレビュー

実話ゆえの熱量が胸を突く家族の再生劇『ヴィットリア 抱きしめて』

『ヴィットリア 抱きしめて』 4月10日(金)新宿武蔵野館、HTC渋谷ほか全国順次公開

第81回ヴェネツィア国際映画祭でイタリア批評家連盟賞(FEDIC賞)などを受賞し、世界中を静かな感動で包み込んだ本作『ヴィットリア 抱きしめて』。名匠ナンニ・モレッティが製作を手がけ、ナポリ南部で実際に起きた養子縁組を巡る物語を映画化した本作は、私たちが抱く「家族」の概念を根底から揺さぶる。

物語の主人公アンナは、愛する夫と3人の息子に囲まれ、何不自由ない生活を送っている。客観的に見れば「完璧な幸福」の中にいる彼女だが、ある日を境に、女の子の養子を迎えたいという強烈な衝動に駆られる。なぜ、すでに母親である彼女が、あえて困難な道を歩もうとするのか。その切実な欲求は、時に家族との摩擦を生み、彼女自身を孤立させていく。

ヴィットリア_サブ2.jpg

アレッサンドロ・カッシゴリとケイシー・カウフマンの監督コンビは、実際の当事者たちをキャストに起用するという大胆な手法をとり、フィクションと現実の境界を曖昧にするほどのリアリティをスクリーンに刻みつけた。ナポリの柔らかな光の中で描かれるのは、綺麗な理想論ではない。法的な壁、周囲の無理解、そして自分の中にある不安。それらを一つずつ乗り越えていく過程は、まるでスリリングな人間ドラマを観ているかのような緊張感に満ちている。日本とは違う養子縁組の制度に驚きを覚えると同時に、まるでサスペンスを覗き見ているかのような体験に引き込まれた。

ヴィットリア_サブ3.jpg

タイトルにある「抱きしめて」という言葉。それは、腕の中に温もりを感じる物理的な行為以上に、他者の人生を丸ごと引き受けるという「覚悟」の表明でもある。血縁という呪縛を超え、一人の女性が「母」として再生していく姿は、観客自身の心にある「愛の定義」を激しく問い直してくるだろう。静かだが、胸を打つ確かな熱量。この春、映画館でこの「抱擁」の意味をぜひ確かめてほしい。

(文/杉本結)

***
ヴィットリア_サブ1.jpg

『ヴィットリア 抱きしめて』
4月10日(金)新宿武蔵野館、HTC渋谷ほか全国順次公開

監督・脚本:アレッサンドロ・カッシゴリ、ケイシー・カウフマン
出演:マリレーナ・アマート、ジェンナーロ・スカーリカ、ヴィンチェンツィオ・スカーリカ、アンナ・アマート、ニーナ・ロレンツァ・チャーノ
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

原題:VITTORIA
2024/イタリア/84分
公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/vittoria/
予告編:https://youtu.be/THtGb-IGBIE
©2024 Zoe Films, Sacher Film, Scarabeo Entertainment, Ladoc

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOK STANDプレミアム