【「本屋大賞2026」候補作紹介】『PRIZE‐プライズ』――人気も金もある、だけど獲れない。作家・天羽カインが欲しいものは「直木賞」だけ。

PRIZE―プライズ―
『PRIZE―プライズ―』
村山 由佳
文藝春秋
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2026」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、村山由佳(むらやま・ゆか)著『PRIZE‐プライズ』です。

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 36歳のときにライトノベルの新人賞でデビューして以来、書けばヒットを飛ばすベストセラー作家の天羽(あもう)カイン。お金も人気も手にし、東京から移住した軽井沢で満ち足りた生活を送っているかと思いきや、彼女には心の底から欲しいのに手にできないものがありました。

 それは「直木賞」。これまでに、誰でも獲れる新人賞や書店員が選ぶ「本屋大賞」は受賞しているものの、ほかはノミネートされても落選してばかり。今や彼女の承認欲求は、直木賞を獲らなくては収まらないほどに膨れ上がっていました。そんな自身の欲望を追い求めるカインの姿とともに、出版業界や作家たちの内情についてスリリングに描き出したのが『PRIZE‐プライズ』です。

 本書の魅力のひとつは、そのリアルさ。作中には実在の作家や出版社を連想させるような名前が出てくるのみならず、「直木賞」「本屋大賞」「文藝春秋」などはそのままの実名で記されており、フィクション作品でありながら業界の内部をのぞき見しているかのような面白さがあります。そうなってくると、登場するキャラクターたちも俄然魅力的に感じられるというもの。美しく優雅に見えて、その実、直木賞に異常な執着を抱き、その苛烈な性格から陰では編集者たちから恐れられているカインという女性が、ひときわ生々しい生気を放って立ち上がってくるのです。

 そんなカインに惹きつけられる人物が、読者以外にももうひとり。南十字書房でカインの担当編集を務める緒沢千紘は、公私ともにカインにのめり込み、神に仕える巫女のような気持ちで本作りに邁進します。やがて彼女が抱いた全能感がどのような事態を引き起こすことになるのかは、ぜひ本書を読んで確かめてみてください。

 誰もがなれるわけではない職業に就き、しかも人気も金もあるのだからそれで十分と思う作家もいるでしょう。業界内での権力争いを嫌って、あえて賞レースに加わらない作家もいるでしょう。しかし、権威ある直木賞が欲しくてたまらないと思うのもまた作家の業なのかもしれません。

 「PRIZE(プライズ)」とは、「(勝者に与えられる)賞、賞金、賞品」という意味のほかに、「(努力して獲得するに足る)目標、貴重なもの」という意味もあります。自身の欲しいものを獰猛に追い求め、全身全霊で突き進むカインの姿に、いつしか魅了され、最後はすがすがしさすら感じるようになるでしょう。本書は、野心や欲望をむき出しにすることをためらいがちな今の時代だからこそ読みたくなる、超一級のエンターテインメント小説です。

[文・鷺ノ宮やよい]

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