誰も傷つけないユーモアで描く過食症の物語 『Maddie's Secret』

『Maddie’s Secret』(日本公開未定)
今年で50回目を迎えたトロント国際映画祭。同映画祭にてコメディアン兼俳優のジョン・アーリーが初監督を務める長編映画『Maddie's Secret(原題)』が公開されました。ジョン自身が主人公マディを演じ、フード系インフルエンサーがネットでの名声や辛い過去、そして密かに抱える過食症と向き合っていく姿を描いた、笑いあり涙ありの良作です。
主人公はフードコンテンツ制作会社で皿洗いをしているマディ(ジョン・アーリー)。彼女は優れたベジタリアン料理人でありながら、人前で料理することが苦手でした。そんなある日、自宅で料理する姿を夫ジェイクがネットに投稿すると、その動画が爆発的な人気を獲得。皿洗いから一転してインフルエンサーとしてカメラの前に立つことになります。名声を手に入れたマディでしたが、プレッシャーが多くのしかかり、やがて彼女が過食嘔吐症の過去を持つことが明らかになっていきます。
ストレスで再び嘔吐してしまったマディは、とっさに夫に「妊娠している」と嘘をついてしまいます。しかしその嘘は思わぬ形で周囲を巻き込み、夫は心から信じて喜び、人間関係はさらに複雑になっていきます。
上映中、会場では観客が声を上げて笑う場面も見られました。過食症に悩む女性の物語が「楽しい」と感じられるのは一見不思議ですが、この作品は誰も傷つけることなく、ユーモアと温かさをもって描き切っている点が見事だと感じました。日本公開は未定ですが、公開された際にはぜひチェックしてほしい一本です。
(文/トキエス)
Image Credit: Courtesy of TIFF