スポーツ映画の枠を超えて。『ジュリーは沈黙したままで』が描く沈黙の重み

『ジュリーは沈黙したままで』 10月3日(金)公開
主役はテニス選手だが、描かれるのは試合の様子ではない。日常のなかで起きたある事件が物語の中心となる。スポーツ映画でありながら、とても静かで不思議な感覚に包まれる作品だった。
ベルギーのテニスクラブに所属する15歳のジュリー(テッサ・ヴァン・デン・ブルック)は、奨学金を得て数々の試合に勝利してきた有望株だ。だがある日、信頼していたコーチのジェレミー(ローラン・カロン)が指導停止となり、クラブから姿を消す。さらに、彼の教え子アリーヌが不可解な状況で自ら命を絶ったことで、不穏な噂が広がり始める。ベルギー・テニス協会の選抜テストを間近に控えるなか、クラブの全選手にヒアリングが行われるが、ジュリーにとっては大きな重荷となった。テニスの調子を崩さないよう日々のルーティンを守り、トレーニングに励むジュリー。しかし彼女は、ジェレミーに関する調査には沈黙を貫き続ける......。
本作は2025年アカデミー賞国際長編映画賞のベルギー代表に選出。2024年のカンヌ批評家週間でプレミア上映され、SACD賞を受賞した。監督は新鋭レオナルド・ヴァン・デイル。長編デビュー作ながら、共同プロデューサーには社会問題を描き続けてきた巨匠ダルデンヌ兄弟の名が並ぶ。さらに、この物語に強く共感した大坂なおみがエグゼクティブ・プロデューサーを務めたことも話題となっている。
スポーツの世界では、選手たちは試合で戦う一方、コートの外でも見えない何かと戦っている。本作を通じて、そのことを改めて感じた。プロ選手がメンタルトレーニングを行うと聞くが、そばで支えるコーチの存在も大きい。本作に登場するコーチは指導停止となるが、スクリーンに映るのはわずか1、2分ほど。その短い場面が観客に強烈な印象を残す。喫茶店での彼の振る舞いは、これまで見たことのないもので衝撃的だった。
言葉にはされないが、そこから漂う違和感や空気感で観客に「察してほしい」と語りかけてくる。スポーツ界で同じようなことが絶対にないとは言い切れないからこそ、この作品には大きな意味があるのだと思う。テニスを題材にしているが、スポーツの種類を問わず、指導者・プレーヤー双方に観てほしい作品だった。
(文/杉本結)
『ジュリーは沈黙したままで』
10月3日(金)公開
監督:レオナルド・ヴァン・デイル
出演:テッサ・ヴァン・デン・ブルック、クレール・ボドソン、ピエール・ジェルヴェー、ローラン・カロン ほか
配給:オデッサ・エンタテインメント
2024/ベルギー・スウェーデン合作/100分
公式サイト:https://odessa-e.co.jp/julie_keeps_quiet/
予告編:https://youtu.be/DIU2m9pti_A?si=bCjIAP3dyzHO67QE
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