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あなたなら愛する人を信じきれる?『入国審査』

『入国審査』 8月1日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

スペインで大バズりした作品が、ついに日本にやってくる!
映画としては短いと感じる77分の作品。しかし、鑑賞後の疲労感はそれ以上の体験をしたように感じるはず。
わずか17日間の撮影、たった65万ドルで制作された低予算の監督デビュー作。そんな作品が、世界の映画祭で次々と最優秀作品賞、観客賞を受賞している。

移住のために、バルセロナからNYへと降り立ったディエゴとエレナ。エレナがグリーンカードの抽選で移民ビザに当選し、事実婚のパートナーであるディエゴと共に、憧れの新天地で幸せな暮らしを夢見ていた。ところが、入国審査で状況は一転。パスポートを確認した職員になぜか別室へと連れて行かれる。「入国の目的は?」密室ではじまる問答無用の尋問。やがて、ある質問をきっかけに、エレナはディエゴに疑念を抱き始める――。

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第二次トランプ政権下でたびたび話題になる移民問題。強制送還や不当な逮捕などが起きているが、これは私たちにとっても、海外旅行をする際に決して他人事ではないことを知ってほしい。実際にハワイでは、観光目的なのに「結婚している?」「旦那は?」といった同じ質問を何度もされるという話も聞いたことがある。さらにはスマートフォンを没収されたり、中を確認されることもあるらしい。

なぜそんなことをするのかというと、永住権目的で偽装結婚をする人がいるため、警戒が強まっているのだという。劇中でも描かれるが、英語を流暢に話しても疑われるし、話せなくても疑われる。そして、荷物が多くても少なくても、疑われる対象となる。本当に無実であっても、すごくプライベートなところまで尋問されるため、もしもパートナーにすべてのことを打ち明けていなかった場合、関係にヒビが入りかねない。

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審査官の威圧的な態度や言動はとてもリアルで、まるで彼らの筋書きに従って、早く終わらせたいと思わされるような恐怖を感じた。それくらいの重圧が、スクリーン越しにもヒリヒリと伝わってくる。
もしかしたら、次は我が身――。
そう思って観てほしい、極上の深層心理サスペンスだった。

(文/杉本結)

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『入国審査』
8月1日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス
出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシ
配給:松竹

原題:UPON ENTRY
2023/スペイン/77分
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/uponentry/
予告編:https://youtu.be/IYUFK8S_49c
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