危うくて自由な放浪者たち――破天荒でもまっすぐに生きる"エグザイルス"の哲学

- 『エグザイルス・ギャング (幻冬舎アウトロー文庫 O 56-1)』
- ロバート ハリス,Harris,Robert
- 幻冬舎

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「どこかへ逃げ出したい」。そんな衝動を胸の奥にしまい込みながら、日々を過ごしている人は少なくないだろう。仕事、家庭、人間関係――気づけば、誰かの期待や社会のルールに縛られ、"自分のために生きているつもり"が、いつの間にか"誰かのため"へとすり替わっている。
ロバート・ハリス氏の著書『エグザイルス・ギャング』(東京書籍)は、そんな"まともな日常"から逸脱した者たちの記録だ。ギャンブル、ドラッグ、放浪、性愛――破天荒で危なっかしい彼らの生き様を、著者はどこか愛おしむように、ユーモアを交えて描いている。
そもそも「エグザイルス」とは何か。直訳すれば「放浪者たち」「追放者たち」だが、著者はこう語る。
「――自然体で僕らしく生きていたい、どんな時でも自分のスタイルや遊び心だけは失わないでいよう、いつもオープンで好奇心旺盛でいよう――これが僕の、エグザイルスとしてのスタンスなのだ」(本書より)
つまりエグザイルスとは、社会の枠にとらわれず、自分のスタイルを貫いて生きる"我が道を行く者"のこと。著者自身もその1人だ。
1948年に横浜で生まれ、日本とイギリスのルーツを持つ彼は、若くしてヨーロッパやインドなど世界各国を放浪した。たどり着いたオーストラリア・シドニーで開いたブックショップ兼画廊「エグザイルス」は、作家や詩人、モデル、ジャンキー、娼婦まで、さまざまな"はみ出し者"が交差する溜まり場となった。
「『エグザイルス』は僕にとって、ライフスタイル、人間関係、セックス、ドラッグ、ファッションと、あらゆる面でのいわばラボラトリー、実験室のようなところになった」(本書より)
この"実験室"に集う風変わりな人々の描写こそが、本書の大きな魅力だ。例えば、善寺の僧をパンク風に仕立てたような日本人カメラマン、LSDの影響で精神病院に入っていた元ヒッピー、会員制トップレスバーを経営するイギリス人......。どの人物も一見すると危なっかしく、近寄りがたい。それでも著者は、彼らを突き放すことなく、興味と愛着をもって受け止めている。
なかでも印象的なのが、出版社のセールスマンとして店に出入りしていたローリー・ローズだ。スーツ姿で、著者にとっては存在感の薄い男だった。
しかしある日、ローリーが「早く仕事を切り上げてビーチに行きたい」と漏らしたことで、空気は一変。海辺では女性客に浮き輪を貸しながら、横には「バックギャモン」の盤。挑戦者と掛け勝負をして稼ぐという、あまりにも自由すぎる"二足のわらじ"生活を送っていたのだ。
その奔放な姿に触れ、著者は次第に彼へ興味を抱くようになる。
「自信過剰で、決して親友と呼べる仲になれるような男ではなかったが、彼には彼なりのフィロソフィーとスタイルがあり、それらに忠実に、自分を曲げることなく生きていた」(本書より)
ローリーの生き方は、いわゆる"正しい生き方"からは大きく外れているのかもしれない。しかし、どこか清々しい。世間の物差しでは測れない、"エグザイルス"の精神そのものを体現している人物なのだ。
自分に忠実に生きる者には、なぜか人を引き寄せる磁力のようなものがあるのだろう。本書には、著者とロマンスを繰り広げた女性たちも数多く登場する。"エグザイルス"の恋もまた型破りだった。
なかでも強烈な印象を残すのが、ブラジル人モデルのハディア。著者が店をたたんだあと、コーディネートの仕事で出会った彼女は、ワイルドな髪に180センチ超の長身。気が強く、気まぐれで、情熱的な女性だった。
2人ともパートナーを持つ身であり、関係は決して許されるものではない。それでも本書では、そんな"許されない恋"さえも、どこか軽やかで、ユーモアたっぷりに描かれ、思わず引き込まれてしまう。痛みや葛藤を抱えながらも、生きる歓びとエクスタシーに満ちており、著者自身の揺らぎや高揚までもが、臆することなく赤裸々に綴られている。
「僕はすべてのものに意味などなくていいと思っている。たまにみつかるからいいのだ」(本書より)
この言葉には、ハディアとの関係や自由奔放な日々の数々が象徴されている。意味やルールに縛られず、その瞬間ごとの魅力や欲望に素直に身を委ねる。それこそが、"エグザイルス"としての生き方の神髄なのだろう。
本書に描かれる価値観は、万人に受け入れられるものではないかもしれない。しかし、朝まで仲間とギャンブルに興じたり、ドラッグに溺れる友人を実家に居候させたり、音楽に身を任せて踊り続けたり――どこまでも青春が散りばめられている。
「もし今までの人生で得たものの中で何が一番宝物かと聞かれたら、僕はためらうことなく『このような変な仲間たち』と答えるだろう」(本書より)
本書は、アウトローたちの破天荒な日々を通じて、「自由とは何か」「人間とは何か」を問い直してくれる。ルールや意味に縛られすぎて息苦しさを感じているとき、この本はそんな日常に風穴を開けてくれるだろう。
