もやもやレビュー

超局地的バーリヤッ!『ロボット・モンスター』

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 ちょっと前にバリアがどうしたこうしたというようなことが話題になっていると、ネットニュースなどで目に入ってきた。「バリア(barrier)」というのは防壁や防護柵、門など、こちらとあちらを隔てるもののことだ。家を囲むブロック塀、廊下と部屋を隔てる扉、敷地を区切るちょっとした溝や段差などもバリアといえるだろう。

 といっても今回話題となった「バリア」はこうした本来的な意味合いというより、文脈からみるにSFにしばしば登場する謎のエネルギー(おそらく電気的な何か)によって敵の攻撃を防ぐために起動する超常的な防御装置をイメージしたもののようだ。子どもたちがえんがちょなんて言いながら走り回り逃げ回り、追いつかれそうになった時に相手から身を守る際に発する「バリヤー!」の原型、といえばわかりやすいだろうか。発音としては「バーリヤッ!」だったかな。

 そういえば最近、こういう意味での「バリヤー」が登場する作品って自分はあんまり見なくなってしまったな、子どもの頃は好きだったのにと、急にその手のものが見たくなり、どうやらそういうバリヤーが登場するらしい『ロボット・モンスター』(1953)を鑑賞することとした。

 ピクニックをしている家族やその知人であるらしい科学者一向。ちょっとお昼寝をして目覚めると、世界は彼らを残して全滅していた。地球を狙う何者かによる攻撃がその理由らしい。一向はひとまず家へ避難、科学者が開発していたバリアによって、ここにいれば敵から見られず攻撃されないという。

 が、だからといって籠りっぱなしというわけにもいかず、侵略者をどうにかやり込むためというかなんというか、みんなかなり迂闊に頻繁に、バリアで守られたお家の外へ出てしまう。

 なお、この映画におけるバリア描写だが、壁の一部に張り巡らされた数本のケーブルによって発生していると説明されながら、バリアそのものは特に映像的に描写されず、その効果もよくわからない。それもそのはず、本作は史上最低の映画ランキングなるものを実施すると、エド・ウッド監督の諸作品と並んで毎回上位に食い込むほどの低評価作品として名高い一作なのである。

 ロボットだかモンスターだか宇宙人だかわからない悪役も身体はゴリラ、頭部だけ潜水服を被った着ぐるみだし、話の流れを無視して他の低予算映画から借用したらしいクオリティの低い怪獣や恐竜格闘場面が挟み込まれるし、飛んでいるロケットを操作しているスタッフの腕らしきものは写り込んでいるし、人間関係も途中から設定が変わっちゃったりするしと、まあなんというか良くない意味ですごい映画である。えんがちょから身を守れそうな荒唐無稽な意味でのバリアが登場するのも納得だ。

 一応、現実でも実際にエネルギー的なバリアの研究はなされているようではあるのだが(生成AIに教えてもらいました)、今のところは核抑止みたいな使い道は完全にSFの領域だそうである。えんがちょから身を守るため「地球全体バリヤー!」などと口にするのが関の山、といったところか。発音は「地球全体バーリヤッ!」だ。

 といっても子どもがえんがちょえんがちょ言いながら「バリヤー!」と言い張るのも、当時を思い返すと自分は納得いっていなかった。

 えんがちょは鬼ごっこの派生のようなものではあるのだが、もともとは誰かがじゃんけんで鬼になるのではなく、たまたま不潔とされるものを触ってしまった一人を別の誰かがえんがちょと騒ぎ立て、その不潔感を押し付け合うのがパターン。確かに鬼ごっこの派生版ではあるのだが、不潔感という拭い難いものが発端のため、鬼ごっこより必死になりがちだ。

 それだけに、追いかけっこの最中に「バリヤー!」と言われると、てめえでえんがちょとか言い出して不潔感を掻き立てておきながら自分が不利になった途端に遊びを装って逃げるのかよ! と腹が立ってしまうのである。それをどうにか抑えて「バリヤーしてるんなら触られたって平気だろ」とえんがちょな何かをなすりつけると、そいつはたいてい「バリヤー中だから触っちゃダメ!」とか言い出すのだ。勝手にルール作ったり変えたりしやがって! 納得いかねえ!

 あと、そもそも「barrier」には「さえぎるもの」とか「境界」とかいった意味もあり、不必要な分断や差別を意識させる効果も抜群、えんがちょの起点となる不潔とされるものが同じクラスの立場の弱い誰かだったりすることも少なからずあったりしたわけで(子どもの頃とはいえ自分がそういう追いかけっこに参加していたことを猛省)、子どもならともかくいい歳した大人が軽々しく「バリア」なんて言ってるんじゃないよ、なんてことを思ったりしつつ、『ロボット・モンスター』の絶望的に想像力の枯渇した感じは今回の「バリア」ニュースに通じるものがあるな、とも思うのであった。

(文/田中元)

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