図書館は毎日10冊本を捨てている!? 意外と知らない"図書館"のリアル

図書館を学問する: なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか
『図書館を学問する: なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』
佐藤 翔
青弓社
2,640円(税込)
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 幼少期には親に連れられて、学生時代になると夏休みの宿題をしに行ったり資料を探しに行ったりと、ほとんどの人が人生の中で何度か図書館を利用したことがあるはず。しかしその中で、一体どれだけの人が「図書館」について知っているのだろう。

 『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』(青弓社)の著者・佐藤 翔氏は、事実やデータ、エビデンスを踏まえて図書館を考える「図書館情報学者」だ。図書館情報学とは、図書館の本をどう並べると管理しやすく利用者も便利なのかといった考察や、図書館を通じた学術的な情報の利活用など、図書館にまつわるさまざまな研究のこと。本書では佐藤氏が研究してきた「図書館情報学」の視点から、図書館に関する素朴な疑問に答えている。

 まずはタイトルにもなっている「なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか」について。図書館というと"本を貸し出してくれる場所"以外に、"本を保管する場所"というイメージがあるだろう。しかし佐藤氏曰く、日本の図書館では年間約1000万冊の本が捨てられているそうだ。

「確かに図書館は本を保存するところですが、同時に大量の本を捨てているところでもあります。というより、有限の空間のなかに体積をもつ物体を収めるかぎり、新しく受け入れるものがあったら、そのぶん捨てないといけないのは当然で、そうしなければいずれ収まりきらなくなります」(本書より)

 言われてみれば当然であるが、全国3000以上ある公立図書館で、1館平均1日10冊も捨てているというのは驚きだ。とはいえ、捨てている数よりも実は受け入れ数のほうが多いのもまた事実。やはりいずれはパンクする運命だが、著者がざっと計算したところ、その時期は早くて約27年後、遅ければ約172年後であるという。まだまだ先の話のことのようで、ひとまず安心だ。

 こんなことも学問になり得るのか、と思ったのが「雨の日に図書館に来る人は増えるのか、減るのか」という問い。「晴耕雨読」とは晴れた日は田畑を耕し、雨の日は読書をする...... 天候に合わせた悠々自適の暮らしだ。この四文字熟語のように、人々は雨の日に読書をするのか、もっと言えば、図書館に足を運ぶのかどうかを検証している。

 データを取ったのは、東京都の江東区立図書館と愛知県の田原市図書館。それぞれの1日あたりの貸出冊数とその日の天候の関係を調査した。すると、江東区立図書館では晴れの日に比べて雨の日の貸出冊数に差が見られた(雨の日のほうが少ない)が、田原市図書館では明確な差は出なかったそうだ。

 なぜ図書館によって差があるのか。佐藤氏は、図書館へのアクセス方法の差だと推測する。江東区立図書館は都会にあるため、徒歩や公共交通機関での利用が多い。一方、田原市図書館はその立地から自家用車での来館が多いのが理由だと考えられる。

「もっとも、まだ二館だけを調べた結果ですので、今後はもっと多くの図書館で分析していく必要があるでしょう。さらに、今回は考慮に入れていない気温や季節など、さまざまな要因も考慮していけば、ある日の来館者数・貸出冊数を事前予測する、みたいなこともかなりうまく進められそうな手応えが今回得られました」(本書より)

 考えてみれば、雨の日に本を借りるために外出するのは基本的に億劫なこと。しかしそれをデータ分析し、視覚化することこそが「図書館情報学」なのだろう。

 本書では、「人はどのタイミングで図書館を使うようになるのか」についても分析している。これは千葉県・柏市立図書館のデータを元に、新規利用登録者の利用動向を調べたものだ。新規利用登録をする年代を分析したところ、一番のボリュームゾーンは10歳未満の子どもで、次いで30代となった。30代が多いのは、子どもの新規利用登録の際、一緒に保護者も登録するからだと思われる。

 次に多いのが、おそらく保護者の年代と思われる40代、そして10~20代、60代と推移する。出生や進学、卒業、就職、出産、定年退職といったライフステージの変化のタイミングで、新たに利用登録をするケースが多いと言えそうだ。佐藤氏はこう分析している。

「検証していくべき仮説を示すものとしてはなかなか興味深い結果が出たように思います。ライフステージの変化が図書館アピールのタイミングになるので、ブックスタートなどはもちろんですが、市内への進学・就職者などにうまく周知するというのも利用者の新規開拓には有効なようです」(本書より)

 他にも"図書館利用者に多い趣味"など、数々の図書館に関する分析がなされている本書。よく図書館に足を運ぶ人も、近頃めっきりご無沙汰の人も、読めばきっと図書館に行きたくなる一冊だ。

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