『月刊予告編妄想かわら版』2025年07月号

『私たちが光と想うすべて』 (7月25日公開)より
毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』四十七回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
07月公開の映画からは、この四作品を選びました。
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『夏の砂の上』(07月04日公開)
公式サイト:https://natsunosunanoue-movie.asmik-ace.co.jp/
予告編:https://youtu.be/fnHo2WQpajQ?si=epR0VXg5MRU7U5Yx
第50回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した松田正隆の傑作戯曲を、次世代の映画界を担う演出家・玉田真也の監督・脚本で映画化した『夏の砂の上』。
幼い息子を亡くしてから時が止まってしまった小浦治(オダギリジョー)と、その彼を見限った妻の恵子(松たか子)。そこに治の妹である川上阿佐子(満島ひかり)が娘の優子(高石あかり)を連れてくる。「この子ちょっと預かってほしいと思って」と阿佐子が治に言うシーンを予告編で見ることができます。
「おじちゃんの子供って死んじゃったの?」「なんで、そげんこと聞くとね」「私のいとこだったのにと思って」という叔父と姪のやりとりもあり、突然の共同生活が始まっていくようです。
ここからは妄想です。治と恵子の夫婦はもはや関係性は修復できない状態になっており、ある意味で母に捨てられたように見える優子、彼らメインの登場人物たちは癒えない傷を抱えているように見えます。
息子を亡くした夫婦は、その喪失感と痛みによってお互いを傷つけてしまったのかもしれません。そこに現れた姪との共同生活は、お互いの傷を癒せるきっかけになるのでしょう。「父」になれなかった治は、優子との関係性において「父性」を獲得していくはずです。そして、その上で恵子は彼と正式に別れようと決める。最後は三人それぞれ離れ離れになって新しい生活を始めるというラストではないでしょうか?
『夏の砂の上』
7月4日(金)公開
配給:アスミック・エース
© 2025映画『夏の砂の上』製作委員会
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『顔を捨てた男』(07月11日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/different-man/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=9T4OaxrgMKA
独創的な作品を世に放ち続け、世界中の映画ファンから支持を受けているスタジオ「A24」と気鋭アーロン・シンバーグ監督が初めてタッグを組んだ『顔を捨てた男』。
顔に極端な変形を持つエドワード(セバスチャン・スタン)は役者を夢見ていた。彼は劇作家のイングリッド(レナーテ・レインスヴェ)と出会い、惹かれ始めていく。「いつか君の芝居を観たい」「観たいじゃなくて"出たい"でしょ」という二人のやりとりも予告編にあります。
エドワードは容姿を劇的に変える治療を受け、念願だった「新しい顔」を手に入れて、イングリッドに「君の芝居に出たい」と告げる。しかし、エドワードの前にかつての自分の顔にそっくりなオズワルド(アダム・ピアソン)が現れたことで事態は急変していく。
ここからは妄想です。かつてエドワードの顔とそっくりなオズワルドはみんなの人気者になっていきます。そしてイングリッドでさえ「私は彼を主役にしたい!」というシーンも予告編にあり、見た目の問題ではなかったのではと思わせるブラックユーモアやアイロニーも感じます。
オズワルドはエドワードのことを知っているのに、エドワードは彼のことを知らないという反応をしているので、映画『転校生』の原作「おれがあいつであいつがおれで」状態なのかもしれません。つまりオズワルドはエドワードが捨てたかつての可能性の具現化です、たぶん。
『顔を捨てた男』
7月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2023 FACES OFF RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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『スーパーマン』(07月11日公開)
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/superman/
予告編:https://youtu.be/UfaqcMtsT7Q?si=wJXek3u1wG8MZEsb
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのジェームズ・ガン監督が新生「DCユニバース(DCU)」の第一作として手掛ける『スーパーマン』。
新聞記者として平凡に働くクラーク・ケント(デイビッド・コレンスウェット)。彼の正体はクリプトン星の生き残りであり、地球を守るヒーローの「スーパーマン」だった。そんな彼を同じ会社に勤めるロイス・レイン(レイチェル・ブロズナハン)が単独インタビューをするところから予告編は始まります。彼女からスーパーマンに対して、多くの人々から非難の声が上がっていると言われます。クラークは「僕は戦争を止めた」と言い返してちょっと不機嫌になっているものの、他国への不法入国で捕まっているシーンも見ることができます。
ここからは妄想です。「スーパーマン」といえば、アメコミ史上最も歴史のあるヒーローですが、今回の新しい作品では現代における「正義」のありかたやその困難さを描いているように見えます。「何を選び、何をするのか、それが本当の自分を決めるんだ」というクラークの養父のジョナサンの言葉が今回の作品の主題の一つなのでしょう。
ジェームズ・ガン監督がどんな風に「スーパーマン」をこの時代に甦らせたのかと今からワクワクしてします。あっ、すいません。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズが大好きだったのでただの本音になってしまいました。
『スーパーマン』
7月11日(金)日米同時公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
© & TM DC © 2025 WBEI
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『私たちが光と想うすべて』(07月25日公開)
公式サイト:https://watahika.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=XntFDGuzdjU
第77回カンヌ国際映画祭でインド映画史上初のグランプリを受賞、70か国以上での上映が決定している新鋭パヤル・カパーリヤー監督初長編劇映画『私たちが光と想うすべて』。
ムンバイの病院で働く真面目な性格のプラバと年下で陽気な同僚のアヌはルームメイトして一緒に暮らしている。既婚のプラバはドイツで働く夫と電話をしたのは一年以上前で、ほぼ音信不通に近い状況になっていた。アヌには夜にだけ会う恋人がいるようですが、親には紹介できない相手のようで、さらにお見合いをせっつかれていることが予告編ではわかります。
ここからは妄想です。「今結婚したくない」「運命から逃れられない」という二人の会話や、「ここは幻想の街だよ」「幻想を信じないと気が変になる」というセリフも予告編にあります。彼女たちはインドにおける当たり前の価値観に反発を覚えているような表情も印象的です。
病院の食堂に勤めるパルヴァティと共に二人が海辺の村に向かうシーンも見られ、その逃避行、あるいは小さな旅で彼女たちは自分たちが望んでいる世界を手にしようと考えることになるのでしょう。タイトルにある「光」とは自分が望む未来、明日のことのように思えてきます。逃れられない「運命」から二人は解き放たれるのであれば、プラバは離婚して、アヌは恋人と共に暮らすことを選ぶことで、自分が望む生き方を選ぶのではないでしょうか?
『私たちが光と想うすべて』
7/25(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
配給:セテラ・インターナショナル
© PETIT CHAOS - CHALK & CHEESE FILMS - BALDR FILM - LES FILMS FAUVES - ARTE FRANCE CINÉMA -
2024
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文/碇本学
1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。