"顔"を変えても、心は変えられない──A24が突きつける衝撃作『顔を捨てた男』

『顔を捨てた男』 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中
またA24がとんでもない作品を世に送り出してきた。今回紹介する本作は、どこでも見たことのない唯一無二の映画だ。
顔に極端な変形を持つ、俳優志望のエドワード(セバスチャン・スタン)。隣人で劇作家を目指すイングリッド(レナーテ・レインスヴェ)に惹かれながらも、想いを伝えられずにいた彼は、ある日、外見を劇的に変える過激な治療を受け、念願の"新しい顔"を手に入れる。過去を捨て、別人として順風満帆な人生を歩み出した矢先、目の前に現れたのは、かつての自分の「顔」に似たカリスマ性のある男・オズワルド(アダム・ピアソン)だった。その出会いによって、エドワードの運命は想像もつかない方向へと猛烈に逆転していく...。
アカデミー賞にノミネートされた特殊メイクは、主人公エドワードを演じたセバスチャン・スタンを別人のように作り上げている。顔が変化したことで、周囲の態度がどう変わるのかを描いたシーンは、ルッキズム(外見至上主義)に対するブラックユーモアたっぷりの描写となっていた。
セバスチャン・スタンといえば、『アベンジャーズ』シリーズや、最近では現役大統領ドナルド・トランプを演じたことでも話題に。本作では、ベルリン国際映画祭とゴールデングローブ賞で主演男優賞を受賞している。
外見によって人への接し方が変化してしまう。そんな人間の醜さを、"悪気のない悪意"として描くことで、より鋭く突きつけてくる本作。後半にかけてどんどん読めなくなる展開に、すっかり引き込まれ、あっという間にエンドロールを迎えていた。
全米では、たった2館から上映をスタートし、最終的に265館まで拡大された本作。その数字が物語るのは、観客一人ひとりの心に確かに何かを残したということだろう。
「顔を変えれば、人生も変わるのか?」という問いに対し、イエスともノーとも言い切れない、人間の複雑な本質がスクリーンを通して突きつけられる。
外見に対する社会の無意識な偏見、そしてその中で揺れ動くアイデンティティ。
観終わった後には、自分自身がどこか試されているような、そんな気持ちにもさせられる。
"顔を捨てる"ことで手に入れたのは、本当に幸せだったのか。
観る者に深い余韻と問いを残す、静かで力強い一作だった。
(文/杉本結)
『顔を捨てた男』
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中
監督・脚本:アーロン・シンバーグ
出演:セバスチャン・スタン レナーテ・レインスヴェ アダム・ピアソン
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:A Different Man
2023/アメリカ/112分
公式サイト:https://happinet-phantom.com/different-man
予告編:https://youtu.be/9T4OaxrgMKA
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