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"3つの選択"が運命を変える新感覚サスペンス『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』

『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』 12月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開

19歳で制作した同名短編がジョエル・コーエンに絶賛され、一躍注目を集めた新鋭フレディ・マクドナルド監督。彼の長編デビュー作となる『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』は、2024年のサウス・バイ・サウスウエストを皮切りに、ロカルノ、シッチェスといった世界各国の映画祭を席巻した。

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主人公のバーバラを演じるのは、アイルランド出身の新星イヴ・コノリー。友も恋人もおらず、亡き母の残した"喋る刺繍"の店は倒産寸前。人生の崖っぷちに立たされていた彼女は、ある日、美しいスイスの田舎町で麻薬取引の現場に遭遇してしまう。目の前には拳銃と大金が詰まったトランクケース。
そこで浮かぶのは──
〈完全犯罪(横取り)〉〈通報〉〈見て見ぬふり〉
の3つの選択肢。

本作は、バーバラの決断によって分岐する"3つの結末"を描き、彼女が商売道具である針と糸を武器にマフィアへ立ち向かっていくという予測不能のサスペンスだ。コーエン兄弟作品を思わせるブラックユーモアとクライム要素が巧みに織り込まれ、最後の1秒まで目が離せない。

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物語の根底にあるのは、「人生は選択の連続である」という普遍的なテーマだ。冒頭に響く"choice choice choice"が示す通り、バーバラの運命は数珠つなぎの決断で紡がれていく。ふと落とした1つのボタン──その小さな行動からすでに選択は始まっていたのだと気づかされる。

この"選択"という主題は、現実世界でも共通する。スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着たのは、意思決定に費やすエネルギーを節約するためだと言われている。マーク・ザッカーバーグやバラク・オバマにも見られる"決断疲れ"回避の戦略は、多くの成功者の習慣でもある。

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小さなミスが大きな破滅へと連鎖する可能性もあれば、些細な決断が未来を切り開くこともある。本作は、まるでバタフライエフェクトのように、選択の波紋が人生にどう影響を与えるのかを鮮やかに可視化してみせる。

不運続きのバーバラが迎える"最悪な1日"。
その先にあるのは破滅か、再生か。それともまったく予想外の結末か──。
選択が運命を紡ぎ直していく、その瞬間に立ち会える一篇である。

(文/杉本結)

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『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』
12月19日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開

監督:フレディ・マクドナルド
出演:イヴ・コノリー、カルム・ワーシー、ジョン・リンチ、K;・カラン、ロン・クック、トーマス・ダグラス、ヴェルナー・ビールマイあー、キャロライン・グッドオール
配給:シンカ

原題:Sew Torn
2024/アメリカ・スイス/100分
公式サイト:https://synca.jp/ohariko/
予告編:https://youtu.be/B48M3XmRDCM
© Sew Torn, LLC

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