もやもやレビュー

ジャケットのキャッチコピーが羊頭狗肉『ザ・ファーム 恐怖の食物連鎖』

ザ・ファーム―恐怖の食物連鎖―(字幕版)
『ザ・ファーム―恐怖の食物連鎖―(字幕版)』
ハンス・シュテルンスヴェルト,ノラ・イェサヤン,アレック・ゲイロード,ケン・ボロック,ロブ・ティスデイル,ケリー・ミス
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 ご大層に解説文で「ヴィーガニズムに警鐘を鳴らす衝撃作!」とうたっているからどんなものなのかと視聴すれば設定以外はすべてボロボロのダメ映画。人間を家畜として食材とする設定は悪くないが細かい部分が雑すぎて突っ込みどころしかない。牛の代わりに人間を食肉にしたり搾乳したりするって牛から同量の肉や乳をとることに比べるとだいぶ効率が悪くて仕方がないだろう。従事する人間が先に死んでしまう。作品で主義主張を全面に出すのは結構だが面白くないものはそもそも誰も視聴しないと思うのだけど。それとも海外では反ヴィーガンを掲げたら誤解して視聴するうっかりさんが多いのだろうか。

 車で旅行中の夫婦が田舎をドライブしている途中、立ち寄った村で地元民に聞いた安宿に泊まり、目覚めると狭い檻に閉じ込められていた。この村は牛の代わりに人間を飼育する人間農場だった――というあらすじ。人間を飼育して出荷するなんて、ありそうであまりない設定でどう転がるのだろうかとワクワクしたのもつかの間、さらった人間の肉や乳を街に卸して生計を立てているという話が出てきて茫然。原価ゼロでもめったに人が訪れない土地に来る人間の肉や乳を売っていくらの売上になるのかと。そんな商売では1年経たずに村の経済が破綻すると思うのだけど。あと、村人が動物の仮面を被っているのには何か意味があるのか。屠殺や種付けはさらわれた人間を動物とみなしている設定なので異様なほどあっさりしている。まぁ仕事なので効率を後回しにする訳もないのだけど。

 ばかばかしさに茫然としていたら結構尺が進んだせいか、突然飼育員が搾乳用の女性を殺害。しかし飼育員は食べ物を無駄にするなと怒られるだけ。酪農家が見たら怒りそうな雑な飼育だ。

 そんな時に冒頭で捕まっていた夫が妻を助けて逃走するも罠に引っかかる。妻は夫を見捨て輸送用バスに乗り込む。バスのエンジンをかけて村から脱出しようと後ろを振り返ると座席は村人たちの姿が。最後は丸焼きにされた2人がテーブルに載せられ村人たちが一同に集まるシーンでエンドロールへ。

 登場人物が全員馬鹿でヴィーガン云々という問題提起がどこにあるのか全く分からなかった。何度か視聴したら見出せるのかも知れないが、短い尺にも関わらずテンポの悪い作品を何度も視聴したくない。特に考えさせられる点はなく、本作の解説文を書いた人間にはどこの部分が問題提起をしているのかぜひ教えて欲しいところ。文字通り羊頭狗肉だった。

(文/畑中雄也)

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