優秀だった姉が南京錠の家に閉じ込められ...... 話題騒然のドキュメンタリー映画が書籍化

どうすればよかったか?
『どうすればよかったか?』
藤野 知明
文藝春秋
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 夫婦ともに医師、かつ研究者。その娘は国立大学の医学部に進学するほど優秀だったものの、ある日突然、事実とは思えないことを叫び出した――。統合失調症の症状が現れた彼女を両親は認めず、精神科の受診から遠ざけ、南京錠をかけて家に閉じ込めました。

 そんな家族に対して弟の立場から20年にわたってカメラを向け続けたドキュメンタリー映画が、藤野知明監督の『どうすればよかったか?』。2024年12月に公開されると大きな反響を呼び、ミニシアター系で異例のヒットを記録しました。今回紹介するのは、2026年1月に発売された同名の書籍版です。「映像では伝えられなかった部分を文字にしたい」(本書より)という藤野さんの思いのもとに作られた一冊となっています。

 タイトルの「どうすればよかったか?」については、「姉を一日でも早く精神科に受診させるべきだった」という点は、藤野さん自身も十分に理解しています。藤野さんは本書で、「私が今もわからないのは、両親を説得するまでに二十五年もかかってしまったのはなぜか、ということ」(本書より)だと記しています。

 姉に最初の発作症状が起きたのは1983年、藤野さんが高校2年生、姉が大学生のときのこと。姉は救急車で病院に運ばれますが、翌日には父が「全く問題ない。医師からは『精神病院に入院すると心の傷になるから』と帰された」と連れて帰ってきます。しかし、そうした両親の対応に納得ができず、また変調をきたしていく姉を見ているうちに、藤野さん自身のメンタルもどんどん不安定になっていきます。

 その後も両親は、姉が研究者らしく見えるよう論文をまとめて発表させるなどしており、藤野さんの母親は「研究や勉強ができているから統合失調症ではない」と話していたといいます。藤野さんの父親も「努力すれば人間はなんとでもなると考える精神主義者」(本書より)だったことを踏まえると、娘を精神障がい者として受け入れることは容易ではなかったと考えられます。

 藤野さんの長年の働きかけもあり、姉が医療とつながり入院することができたのは2008年のこと。姉が49歳のときでした。もしもっと早く治療や服薬ができていたなら、また違う人生があったのではないでしょうか。「姉には大きな可能性がありました。大好きだった天文学でも絵画でも能力を活かせた場はあったと思います。入院までかかった二十五年という歳月は、あまりにも長すぎました」(本書より)と藤野さんは振り返ります。

 映画の公開以来、「我が家は統合失調症を発症した家族の対応の失敗例」だと語ってきたという藤野さん。なぜ両親は判断を間違えたのかについて、藤野さんは「間違えない人はいないから」という答えにたどり着いたといいます。25年の過程を振り返ると、医療につながる節目は確かに何度かありました。しかし、後から見れば明らかなことでも、家族であるがゆえに直視できない現実があるのかもしれません。

 だからこそ読者は、藤野さん一家の問題を決して他人事とは感じられないのではないでしょうか。本書は、家族の問題であると同時に社会の問題として「どうすればよかったか?」と考えるきっかけを与えてくれる一冊です。

[文・鷺ノ宮やよい]

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