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シンデレラストーリーの裏に潜む"現実"『ANORA アノーラ』

『ANORA アノーラ』 全国公開中

今年のアカデミー賞を席巻した『ANORA アノーラ』。第97回アカデミー賞において、ショーン・ベイカー監督がプロデュース、脚本、編集、そして監督として評価され、4部門を受賞する快挙を成し遂げました。1つの作品で4つのオスカーを獲得するのは歴史上初めてのことで、大きな注目を集めました。本作は2月28日より日本でも劇場公開され、ストリップダンサーとして働く主人公が大富豪の息子と結婚する"シンデレラストーリー"を描きます。しかし、その物語は決して甘いだけではなく、厳しい現実が待ち受けるものとなっています。

舞台はニューヨークのブルックリン。23歳のストリップダンサー、アノーラはロシア系アメリカ人であることから、ロシア人の太客を相手にすることに。そのお相手はなんとロシア人御曹司イヴァン。彼はますますアノーラに惹かれ、1週間彼女を独占する契約を結びます。こうして"彼女"となったアノーラですが、ラスベガスでイヴァンが突然プロポーズ。最初はジョークだと思っていたアノーラでしたが、これを受け入れ電撃結婚を果たします。しかし、ロシアにいるイヴァンの両親はこの結婚を聞きつけ猛反対。結婚を無効にさせるためニューヨークにいる手下たちを2人のもとへと送り......。

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イヴァンは親から莫大な財産と自由を与えられた、カリスマ的で陽気な青年。しかし、彼はまだ21歳と若く、後先を考えずに"今"を楽しむタイプでした。一方で、アノーラにとってイヴァンとの結婚は、現在の厳しい生活から抜け出すためのチャンスでもありました。まさに夢のような出来事でしたが、現実はそう甘くありません。イヴァンの軽率な行動が、アノーラに厳しい現実を突きつけていくのです。自分の身は自分で守る強い女性であるアノーラが、それでもイヴァンとの"愛"を信じて行動する姿には胸を打たれます。

本作は定番なラブストーリーというわけではなく、快楽主義の恋愛の果てに待つものを描いています。「人生で大切なものはお金なのか愛なのか」という多くの人々が一度は考えたことがあるテーマについて深掘りしている本作。衝撃のラストにも注目です。

(文/トキエス)

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『ANORA アノーラ』
全国公開中

監督:ショーン・ベイカー
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン ほか
配給:ビターズ・エンド、ユニバーサル映画

2024/アメリカ/139分
公式サイト:https://www.anora.jp
予告編:https://youtu.be/ffjF_rW8ARk
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