もやもやレビュー

本当にあった詐欺事件を本人主演で再現!『ジェリーの災難』

『ジェリーの災難』 3月20日(木・祝)全国公開

今回紹介する作品はすべてが異色の実話である。

長年アメリカに住み、この地で成功することを夢見てきたジェリーは、いまや妻と離婚 し、定年退職。3人の息子とも離れて、独りで暮らしていた。ある日、そんな彼のもとに中国警察から緊急の電話があり、国際的なマネーロンダリング事件の捜査で自身が第一容疑者になっていることを知らされる。ジェリーがフロリダに持つ銀行口座を通して128万ドルが違法に移動されているというのだ。逮捕の上、中国に強制送還すると告げられたジェリーは、中国警察のスパイとして事件の捜査に協力させられるはめに。その後、数週間、銀行を監視して写真を撮る、極秘の送金を行う、さらには隠しマイクを着けて窓口係を探るなど、国際的なマネーロンダリング事件に対する捜査を手伝うのだったが...。数カ月の間、この潜入捜査について隠していたものの、ジェリーはついに家族にすべてを打ち明ける。そして家族は、驚愕の選択をすることに――。

【ジェリーの災難】サブ2.jpg

映画なのかそれともドキュメンタリーなのか、あまりにもリアルでどちらなのかわからなくなった。そして、鑑賞しながら考えていたのは母のことだった。一人暮らしの母は遠方に住んでいてたまに電話をするが、もしもこんな事件に巻き込まれていたとしたら? 私は異変に気づいてあげることは出来ないだろうと考えていた。

【ジェリーの災難】サブ3.jpg

この作品の驚くべきところは電話がかかってきて騙されたジェリー本人が脚本を執筆し、主演としてカメラの前にたったことだ。自分がどんな風に騙されていったのか一部始終が作品にはおさめられている。警察官と名乗る相手は「今日の薬は飲んだ?」などすごく親身になってくれていて、いつの間にかすっかり心を許したまにしか会うことのない家族よりも信頼できる存在になっていた。
犯人たちは寂しさを抱えた老人をうまく操っているように客観的には見えるのだが、当事者になってみると全く違う世界にいたのだろう。自分や自分の家族、周りの人がこのような事件に巻き込まれることがないように。

(文/杉本結)

***
【ジェリーの災難】サブ1.jpg

『ジェリーの災難』
3月20日(木・祝)全国公開

監督:ロー・チェン
出演:ジェリー・シュー
配給:NAKACHIKAPICTURES

2023/アメリカ/75分
公式サイト:https://jerry-movie.com
予告編:https://youtu.be/3aKTNZzvtoY
©2023 Forces Unseen, LLC.

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOK STANDプレミアム