ニュースを見ていると頭をよぎる『合衆国最後の日』
- 『合衆国最後の日 (字幕版)』
- ロバート・アルドリッチ,バート・ランカスター,リチャード・ウィドマーク,チャールズ・ダーニング,ポール・ウィンフィールド
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最近のニュースを見ていると、ときどきある映画の題名が頭をよぎる。上記タイトルに入っているのでさっさと書いてしまうが、その映画とは1977年のアメリカ・西ドイツ合作の『合衆国最後の日』だ。筆者がどういう意味でこのタイトルを連想するのかは読者諸兄のご想像にお任せするが、思い付かれた方はおそらくそれが正解です。
同じようなことを考える方はいるようで、つい先日も池袋の名画座・新文芸坐にて<映画が描く「アメリカの危機」>と題して上映されていた(同企画内では他に『シビル・ウォー アメリカ最後の日』も)。題名だけは頭をよぎるものの未見で内容も知らなかったためこりゃ行くしかないなと思っていたのだが残念ながら行きそびれてしまい、少し遅れて自宅で鑑賞した。
あらすじは、脱獄囚数名がミサイル基地の発射室を占拠。9発の核弾頭搭載ミサイル発射をちらつかせながら、ホワイトハウスを相手にある機密文書の公表を迫る、というもの。『北国の帝王』『ロンゲスト・ヤード』など、いわゆる男臭い映画を得意とするロバート・アルドリッチが本作でも骨太サスペンスを演出し、ややダレる場面はあるものの、少人数かつ限定空間ながら世界規模の危機を緊張感を持たせながらテキパキと見せていく。
とはいうものの、公開当時はともかくとして、現在本作を見るとちょっと危うい作品に変貌してしまっている気もしてしまう。本作で脱獄囚たちが政府に要求する機密文書というのは、彼ら自身がひどい体験をしたベトナム戦争絡みのものであり、それについて隠蔽されている事実を明るみに出せというのは観客も納得できるある種の正義ではある。しかしながら現在は、実体験に基づかない、そもそも存在しているかすら怪しい、というか常識的に考えればあり得ないであろう「真実」を信じ暴こうとしてしまうあまり暴走してしまう方々があまりにも多いわけで、本作はしかし、そうした方々にも大きな勇気を与えてしまいかねない、彼らの行動を後押ししてしまうメッセージとなってしまいかねない作品かもしれないな、と思ってしまったのである。本作における大統領もまた、観客が応援したくなるようなある決断をする人物として描かれるので尚更である。
そんなわけで『合衆国最後の日』、面白いんだけど、見る人を選ぶというか、見せる人を選びたい作品だ。先の懸念、つまりは間違った真実のために目覚めちゃった人たちの行動を後押ししてしまった場合、その行末にまた別の映画の題名、『世界崩壊の序曲』を連想してしまうので。
(文/田中元)
文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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