触れなくても愛している。純愛小説の映画化『誰よりもつよく抱きしめて』
『誰よりもつよく抱きしめて』 2月27日(金)公開
今回紹介するのは感涙必至の究極の純愛小説として話題となった、新堂冬樹の同名小説の映画化作品。
鎌倉の海沿いの街で同棲する、絵本作家の水島良城(三山凌輝)と書店員の桐本月菜(久保史緒里)。学生時代から付き合ってきた二人は、お互いのことを大事に思い合っているが、良城は強迫性障害による潔癖症を患い、恋人の月菜にも触れることができず、手をつなぐことすらできない日常が続いている。ようやく治療を決意した良城は、合同カウンセリングで初めて同じ症状を抱える女性・村山千春に出会う。思いを共有できる相手に出会えたことを喜び、千春との距離を縮めていく。仲睦まじく思いを共有する二人の交流を目の当たりにし、月菜はショックを受けてしまう。二人の溝がどんどん深くなっていくなか、月菜の前に、恋人と触れ合っても心が動かない男・イ・ジェホン(ファン・チャンソン)が現れる。愛する人と触れ合うことがままならない者たちがすれ違い、ぶつかり合い、関係が交錯していく―。
本作、切ない気持ちになるラブストーリーの中に「相手と思いあっている心のつながりだけではなく肉体的なつながりは必要なのか?」という難しくてもどかしい問題が、繊細かつ丁寧に描きあげられていた。
また、作中では潔癖症も外食するにも人目を気にする大変なものとして描かれていた。ひとつひとつの食器をきれいに拭いて手袋をして食べる姿は、周囲からは異質のものとして見られてしまう。どんなに好きな人でも手をつなぐことさえもできないなんて本当にもどかしくて、スクリーンを見ながら彼のことを応援していた。あともうちょっと! 頑張って!とずっとみているうちに、ライバル出現。つらいときに抱きしめてくれる相手と抱きしめることもできない男の狭間で揺れるヒロイン。どっちを選ぶのか? どっちと一緒にいる未来が幸せになれるのか? 最後まで3人の言動に一喜一憂しながら鑑賞した。
本作の主演をつとめたBE:FIRSTメンバーRYOKIとしても活躍中の三山凌輝。最近、NHK連続テレビ小説「虎と翼」の出演も話題となり、今後の俳優活動が気になる俳優の一人だ。主題歌はBE:FIRSTの書き下ろし楽曲「誰よりも」。この楽曲がエンドロールで流れている時に。このエンドロールも含めて一つの物語として創りあげられているように感じた。
ヒロイン、月ちゃんを演じた久保史緒里の透明感も作品にとてもマッチしていた。月ちゃんの心の内を表すように映る鎌倉の海岸。波がよせてはかえしを繰り返す。頭ではわかっていても触ってもらえないことが寂しくてどうしようもない日もあることが、暗い波を見ながら波の音を聞くことで心に沁みわたるようだった。
そんな2人の間に割って入るジェホン役を演じたのは2PMのファン・チャンソン。どこか影もあるけれど、魅力的な大人の男性という役柄が素敵だった。
登場人物も少なく、ひとりひとりの心の内を丁寧に描くことでとても濃密な時間を過ごせる作品に仕上がっている。生きづらさを感じながらも決して人を愛することから逃げないで向き合った彼らの物語をぜひ劇場で見届けてほしい。
(文/杉本結)
『誰よりもつよく抱きしめて』
2月27日(金)公開
監督:内田英治
原作:新堂冬樹「誰よりもつよく抱きしめて」光文社文庫刊
出演:三山凌輝、久保史緒里、ファン・チャンソン ほか
配給:アークエンターテインメント
2025/日本映画/124分
公式サイト:https://dareyorimo-movie.com
予告編:https://youtu.be/EMLAk9rq7Oc
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