吾輩は猫であるは、イギリス生まれなのである 『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』
- 『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ(字幕版)』
- ウィル・シャープ,ウィル・シャープ,サイモン・スティーブンソン,ベネディクト・カンバーバッチ,クレア・フォイ,アンドレア・ライズボロー,トビー・ジョーンズ,オリヴィア・コールマン
- >> Amazon.co.jp
サイケな色使いに、グリグリとした目つき。"猫イラストレーター"ルイス・ウィリアム・ウェイン(1860-1939)の伝記映画である。
このころのイギリスは、ペットといえば当然のように犬が選ばれていた時代。縁起が悪い動物であった猫を、ネズミを追い払う目的で住まわせるならまだしも、家族の一員として扱うだなんて、もってのほかであった。そんなネガティブなイメージを、ウェインのイラストは一新。イギリスにおける猫の地位を向上させたとまでいわれるのだが、こんなエピソードがある。
夏目漱石『吾輩は猫である』のなかで、こんな描写がある。「吾輩が主人の膝の上で眼をねむりながらかく考えていると、やがて下女が第二の絵端書を持って来た。見ると活版で舶来の猫が四五疋ずらりと行列してペンを握ったり書物を開いたり勉強をしている、その内の一疋は席を離れて机の角で西洋の猫じゃ猫じゃを躍っている」
研究者によると、この絵葉書はウェインの描いたものではないか。さらに、漱石はその絵葉書を実際に持っていたのではないかというのである。実は、漱石がロンドン留学していた1900年から1902年、イギリスではウェインのイラストが大ブーム。漱石がそれを目にしなかったとは考えにくい。『吾輩は猫である』の芽はルイス・ウェインにあり、と言っても過言ではないのかもしれない。
さて映画であるが、コンプレックスを抱え、社会になじめずにいた変人を演じるのは、ベネディクト・カンバーバッチ。そんな彼が唯一、愛を分かち合えた、妻と猫。その愛のお裾分けにあずかっているような、あたたかく滋味深い作品である。
(文/峰典子)