もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭 第40回】『猫目小僧』

猫目小僧 [DVD]
『猫目小僧 [DVD]』
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松竹
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『猫目小僧』
2006年・アートポート、松竹・104分
監督/井口昇
脚本/安田真奈
出演/石田未来、竹中直人、田口浩正、載寧龍二、つぶやきシロー、くまきりあさみ、津田寛治ほか

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 楳図かずおの代表作『猫目小僧』は、1967年に『少年画報』(少年画報社)で連載が始まり、1968年に『週刊少年キング』(少年画報社)、1976年に『週刊少年サンデー』(小学館)と連載誌を渡り歩いた人気作品でした。奈良県吉野の山奥で妖怪猫又と人の女性との間に生まれた猫目小僧は、その異形から村人に迫害され旅に出ます。その旅先で猫目小僧は傷だらけになりながら妖怪と戦うのですが、命懸けの死闘は誰にも感謝されず「化け物だ!」と守った人間どもから石を投げられるのが常でした。楳図作品で頻繁に描かれる「醜く生まれてきた者を、見かけだけで判断する人間社会」を、ここでは猫目小僧というダークヒーローの目を通して読者に訴えかけたのです。

 本作の最初の映像化『妖怪伝 猫目小僧』(76年、東京12チャンネル=現・テレビ東京)は、極めて変わった形式でした。キャラや背景を切り絵で作り、そこに本物の砂や水を掛けたり本当に火を点けて燃やしたり(汗)するのです。動く紙芝居といった感じで「ゲキメーション(劇画+アニメ)」と名付けられましたが、東京12チャンネル以外は山陰中央テレビ・石川テレビ・南日本放送の3局しかネットされなかったので、せっかくの実験的な映像表現も観た人が少なくてほとんど話題になりませんでした。当時の筆者も「なんじゃこりゃ!」と驚きましたが、いま見返すとそれなりに見応えあって、スタッフのチャレンジ魂はもっと評価されてよいと思います(ディスク化、再放送、配信希望!)。「猫目キック」「猫目チョップ」なんていう変身ヒーローに寄せた楳図先生自ら作詞(作曲も)した歌詞、アニソン女王の堀江美都子が熱唱した主題歌も耳から離れません。

 さて前回のコラム『蛇娘と白髪鬼』で、その次回作に挙がっていた『猫目小僧』が流れた件を述べましたが、実は2006年に楳図先生のデビュー50周年を記念して実現していたのです。監督は90年代にAVで活躍していた井口昇ですが、『恋する幼虫』(05年)や『片腕マシンガール』(08年)あたりから埋もれていたフェチ才能が一気に開花、B級マインド溢れるヲタク系コメディーに完全シフトしていったのです。また井口監督とどんな接点があったのか、脚本がNHK『中学生日記』を何本も書いている安田真奈だったのは意外でしたが。

 内容は原作の「妖怪肉玉」を翻案したもので、物語は会津の片田舎に東京から越してきた一家を中心に進みます。左頬に大きなアザのある高校生の長女・まゆか(グラドルの石田未来)は、東京でイジメを受けていました。弟は喘息持ちということもあり、妻に先立たれている父親(田口浩正)は子供達のために空気のキレイな田舎町への移住を決めたのです。だが村は妖怪ギョロリの呪いにかけられていました。

 ここでまず、誰もが気になる猫目小僧のビジュアルですが、これが何ともビミョーです。牙の生えた口、尖った耳、そして黒い縁取りの中で金色に光る猫目。楳図先生のキャラを特殊メイクで忠実に再現しているのは確かなのですが、いかんせん半ズボンから出ている脚がパツンパツンの小太りで、10歳くらいの華奢な体格の猫目小僧とはイメージが異なっていました。演者はいくら調べても誰だかわかりませんでしたが、なぜ未だシークレットになっているのでしょうね? 公開当時、トークイベントに呼ばれた猫ひろしの方が猫目小僧に近いと思いました。ちなみに声は『クレヨンしんちゃん』の初代しんのすけ・矢島晶子です。

 原作の猫目小僧は、住み心地よさげな家を見つけると、その屋根裏を宿にします。今回は東京から越してきた一家の新居に住み着きました。まず猫目小僧は、弟が開けた口の中へ「ピュッ」と唾を飛ばします。それをゴクンと飲んでしまった弟ですが(うえっ......)、たちまち喘息は治ってしまいます。さらに転校先でも顔のアザでイジメられているまゆかですが、猫目小僧が頬をペロリペロリと巧みな舌テクで舐め回すと、これまたアザは消えてしまうのでした。原作でも猫目小僧の唾液は治癒能力を発揮していましたが、井口監督は必要以上に気持ち悪くエロく演出するのです。

 ラストはギョロリが次々と村人を肉玉に変えていく、ゾンビ風パニックが描かれます。肉玉のビジュアルイメージは、人の形をした大便(失敬!)を思い浮かべてください。まゆかは右頬に大きな目玉がギョロリと付いた妖怪ギョロリに襲われます(演じるは竹中直人!)。ギョロリはまゆかを捕まえると、口の中からブットイ亀頭型の肉玉をニョキニョキと捻り出します。そう、これは元々スカトロAVの名手でもある井口監督による「チン〇とウン〇のダブルミーニング」なのです。なぜ監督が多くの原作の中から「妖怪肉玉」を選んだのか、これを見て一気に解決しました。ギョロリは「口を開けろ」と、そのイチモツをまゆかの口にねじ込みます。喉の奥へと侵入してくる異物に涙目のまゆか。当時18歳の美少女に合法で行う「疑似フェラと疑似スカトロのダブルミーニング」! え、もう、いいって? ......つ、つまり、かつて可愛い女の子に下品な行為をさせてきた井口監督が本領を発揮させた、天才的な高等テクニックなのでした。

 作品は、廃墟を見に来るバカップルに名脇役・津田寛治くまきりあさみ、まゆかに言い寄るイケメンに『特捜戦隊デカレンジャー』(04年)のレッドを演じた載寧(さいねい)龍二、村の有力者のバカ息子につぶやきシローらが脇を固めまていました。また筆者が嬉しかったのは、原作に登場したキモカワイイ怪生物「ないない」が出てきたことです。「ないない」とは、手足のない長さ1メートルくらいのナマコみたいな体に目と口があり、言葉はしゃべれず知能も低いので猫目小僧が「ないない」と名付けた妖怪のことです。「ないない」は猫目小僧のピンチに突然現れ、先に手の付いた長い舌を伸ばして助太刀します。その正体は、原作では旅する猫目小僧が肩に担いでいる棒キレ(まさに旅の相棒)ですが、映画の中では村の御神木の枝でした。またエンディングの後半に、先述した『妖怪伝 猫目小僧』の主題歌アレンジが流れるのもサプライズでした。気になった方は、ぜひYouTubeでオリジナルソングをご視聴ください。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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