もやもやレビュー

破綻し砂を噛むような虚無感に襲われる『トラップ・ガール 美しき獲物』

トラップ・ガール 美しき獲物(字幕版)
『トラップ・ガール 美しき獲物(字幕版)』
テディ・グレナン,アナベル・デクスター・ジョーンズ,ロバート・ロングストリート,ブルース・ダーン
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 ジャケットを見れば作品の内容がほぼ想像できるような作品を好まない人もいると思うが、本作を視聴すればベタであることの大切さを痛感することになる。視聴者の意表を突こうとしてその努力がすべて悪い方向に作用している。そんな作品はB級映画に珍しくはないけども。ベタを外す代わりに登場人物が全員想像を絶するアホとしか思えないような行動をし、物語の帳尻を合わせるため異様なほどのご都合主義が作中で横行している。その結果、物語は破綻し砂を噛むような虚無感に襲われる結果になる。

 そんな作品ではあるが、配信サイト等に記載されている解説はかなりあおり気味だ。いわく「パーカーに二つの選択肢があった。それは、自分の命を脅かす敵と遭遇した時に、逃げて自分の命を守るということ。本作の主人公は迷わず後者を選択した」とのこと。

 予告編では拷問されたシーンなどがあったし復讐ものなのかなぁと思って視聴を始めたら冒頭で主人公である写真家のパーカーが病院で包帯をぐるぐる巻きにされた状態のまま警察の取り調べを受けているシーンから始まった。パーカーは意味不明なことをつぶやき続け、泣き叫ぶ主人公と猿ぐつわされて目を見開く彼氏、顔に返り血を浴びた悪党風の男などの回想シーンに切り替わる。そこから動物の撮影で森林公園に来ていたパーカーが殺人事件を目撃。それを写真におさめたことが犯人たちにバレて人気のない小屋へ拉致される。

 しかし、縛られた主人公の足元に偶然ナイフが落ちていて、それで縄を切り脱出。犯人たちは怒り狂って追いかけるがパーカーは途中で偶然拾った針金を木の間に張り巡らせバイクで迫ってきた敵を殺害。廃屋で見つけた空のドラム缶数個を偶然見つけていかだを作り川から逃走を続ける。ナイフが落ちている小屋とか針金が落ちている森って何だよ。

 そこまでご都合主義なのに黙って川を下って逃げずに川沿いの洋館を見つけて何故か突撃。そこには病気で養生している老人がいて壁には先ほど自分を拉致した男たちと老人の写真が飾られている。老人と犯人の関係性がよく分からないまま主人公は老人が注射している薬に細工を施し毒殺を図った上で部屋にあった猟銃で殺害。

 そんなこんなでようやく街に着いた主人公は犯人たちの仲間である警察官によって捕まり、再び現場へ。再び縄で縛られ犯人たちのボスと思しき人物と口論し銃を奪う。形勢逆転かと思いきや、主人公の視界には捕まった彼氏の姿が......。
 ここで冒頭のシーンに戻り、彼氏が豚の餌にされた話や自身は生きたまま牛の胃袋に詰め込まれたなどと語りエンドロールへ。

 ほぼ作品の内容をそのまま記したのに自分でも全く意味が分からない。しかし本当にこの通りなのだから仕方がない。ちなみに予告編では主人公が拷問されるなど酷い目に遭うシーンが何カットか映るのだが本作では出てこなかった。つまりB級映画の娯楽要素すら描かれていない。本当に虚無でしかなかった。

(文/畑中雄也)

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