日本のタワマンを爆買い、中学受験でも躍進 中国から"脱出"する新移民たちの実態に迫る
- 『潤日(ルンリィー): 日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』
- 舛友 雄大
- 東洋経済新報社
- 1,980円(税込)
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最近、中国では「潤(ルン)」という言葉が流行しています。もともとは「潤う」「儲ける」という意味ですが、中国語のローマ字表記では「Run」と書くことから、英語の「Run(逃げる)」と掛け合わせたダブルミーニングになり、「より良い暮らしを求めて中国を脱出する人々」を指す言葉として使われているそうです。
その脱出先として注目されているのが日本。多くの日本人が気付かないうちに、「潤日(ルンリィー)」と呼ばれる中国人コミュニティが着実に広がりを見せています。「どのような中国人が日本に来ているのか?」「なぜ他の国ではなく日本なのか?」――そうした疑問とともに中国"新移民"の実態に迫ったのが、中国・東南アジアを専門とするジャーナリスト・舛友雄大氏が著した『潤日(ルンリィー):日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』です。
まず、なぜ中国から日本に移住する富裕層が増えているのでしょうか。舛友氏が「潤日」の人たちに聞いたところ、「物価が他の先進国と比べて安い、過ごしやすい気候、漢字圏なので必ずしも日本語が話せなくても暮らせる」(同書より)といった声が挙がるそうです。また、欧米各国がゴールデンビザ(投資家ビザ)の縮小・制限に向けて舵を切る一方で、日本は長期滞在系ビザの緩和に動いていることも大きいのだとか。
中国移民というと1980年代の「新華僑」を思い起こす人もいるかもしれませんが、「潤日」の人たちはそれとはまったく違う特徴を持っています。日本と中国の経済格差が大きくサバイバルモードだった「新華僑」に比べ、「潤日」の人たちの最大の関心事はライフスタイル。「自由で豊かな生活を享受しにきている」(同書より)といいます。
その象徴的な例の一つが、東京湾岸エリアのタワマンの"爆買い"です。なかでも豊洲が人気で、「都心から近くて生活にも便利」「銀座とも目と鼻の先」「子供の教育環境もいい」といった点が好まれ、投資目的で購入する人も多いそうです。また、都心の一戸建てや大阪のタワマンも最近は注目されています。
そして、こうしたアッパーミドル層は子供の教育にも熱心。「中国では熾烈な受験戦争が繰り広げられるようになり、思想教育の強化も進む。日本の教育環境がますます魅力的に映るようになってきている」(同書より)ことから、近年は東京を中心とした日本のインターナショナルスクールに中国人家庭が増加しているというから驚きです。
ある横浜のインターでは、中国人の比率が25%に近づいており、中国人保護者用のWeChatグループに新規メンバーが続々と加わり、中国人向けのコンサルティングサービスが誕生するほどの盛況ぶりだといいます。日本人富裕層の間でも人気が高いインターですが、「今後は、また別のフェーズに突入し、中国脱出組が主要な顧客になっていくだろう」と舛友氏は指摘します。
同書ではほかにも、現金を日本に持ち込む"地下銀行"の存在や、銀座をはじめ日本中に誕生している会所(プライベートクラブ)、北海道ニセコ町を開発する香港系投資家の動向など、新しいタイプの中国人移民たちの実情を丁寧に取材し、明らかにしています。
「潤」の人々が今後、日本社会にどのような影響を与えていくかは未知数ですが、現状を知りたい人にとって、同書は示唆に富んだ一冊となるはずです。
[文・鷺ノ宮やよい]