もやもやレビュー

実在するホテルが舞台『私にふさわしいホテル』

『私にふさわしいホテル』 12月27日(金)公開

柚木麻子原作の「私にふさわしいホテル」を堤幸彦監督がメガホンをとり映画化。映画では原作の平成という時代設定から昭和に変更しているのが大きな違いだった。時代設定を変更することで映像化する意味や楽しさが出ているように感じた。

新人賞を受賞したにも関わらず、未だ単行本も出ない不遇な新人作家・相田大樹こと中島加代子(のん)。その原因は、大御所作家・東十条宗典(滝藤賢一)の酷評だった。名だたる文豪に愛された「山の上ホテル」に自腹で宿泊し、文豪気分に浸り原稿用紙に向かっていた加代子の元に、大学時代の先輩で大手出版社の編集者・遠藤道雄(田中圭)が訪れる。遠藤から、上階に 文芸誌の締め切りのため東十条がカンヅメ中だと聞かされた加代子は、「東十条の原稿が上がらなければ私にもチャンスが......」と、不遇の元凶である東十条への恨みを晴らすべく、「騒音作戦」、「三島の亡霊作戦」を考え、部屋に乗り込んで一芝居打つ、などの奇想天外な作戦で執筆の邪魔をし、掲載のチャンスをつかみ取ることに成功する。だが、それだけで終わるはずもなく相田大樹と東十条宗典の戦いは幾度となく続くのであった。「私は私の夢を叶える!」と、何度でも立ち上がり、不屈の精神と荒唐無稽な奇策で理不尽な文学界をのし上がっていく加代子。果たして、加代子は山の上ホテルにふさわしい作家になれるのか...!?

本作のみどころはロケ地と俳優陣のキャスティングが素晴らしかったところにある。
まず、「山の上のホテル」は東京神保町に実在するホテルである。神田・神保町という町は出版社が数多く立ち並び作家が「カンヅメ」で執筆活動をするのにちょうど良い立地なのだ。「山の上ホテル」の客室は35室ありどの部屋も違って1つとして同じ部屋はない。また、小さなホテルなのに本格的な7つのレストラン&バーがあり、そこでは7人の名人が腕をふるっている。そんなホテルを定宿とし愛した文豪には川端康成、三島由紀夫、池波正太郎をはじめ名だたる文豪がいたそうだ。

現在、休館中のホテルを見られるのはこの映画だけ! 動きすぎないカメラワークでホテルの内装や美術品など細部まできっちりゆっくり見せてくれる。ホテルの魅力が詰め込まれた演出が素晴らしく行ってみたいなと思って鑑賞してしまった。鑑賞後にHPを見てみるとHPもとても素敵だったのでご興味ある方は是非みていただきたい。

主要キャストとなった、のん、遠藤憲一、田中圭この3人でないと本作は成り立たなかったと思った。のんが演じた加代子は人間のもつ恨みや妬みを隠すこともせず表にだしてくるキャラクターだった。一つ間違えば、不快感を与えてしまうような言動や台詞をのんが演じることで不思議と「憎めないヤツ」として見ていられた。誰にでもある心の奥底で他人に対して抱く、妬み嫉みが共感出来るようにさえ感じられる作品となっていた。
また、遠藤憲一が演じた東十条も人間味あふれる人物で途中加代子と結託するシーンはどうにも可笑しくて笑ってしまった。
そして、田中圭演じる遠藤は真面目で加代子や東十条といった癖の強い作家に振り回されつつもどこかでアシストしてうまく動かしていて作品の舵取りをしているように感じた。

作品全体を通して役者がすごく楽しそうに生き生きとしているのが見ていて伝わってきた。コメディタッチに描かれていてほっこりとした気持ちで見られる作品となっている。
年末年始楽しい気持ちで過ごせるおすすめの作品だ。

(文/杉本結)

***
『私にふさわしいホテル』
12月27日(金)公開

監督:堤幸彦
原作:柚木麻子『私にふさわしいホテル』(新潮文庫刊)
出演:のん、田中圭、遠藤賢一、髙石あかり、田中みな実、橋本愛 ほか
配給:日活/KDDI

2024/日本映画/98分
公式サイト:https://www.watahote-movie.com/
予告編:https://youtu.be/MUVVKKWQugw
© 2012柚木麻子/新潮社 © 2024「私にふさわしいホテル」製作委員会

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