もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2024年10月号

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』 (10/11公開)より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』三十八回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
10月公開の映画からは、この四作品を選びました。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月04日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=ri1-GwJdlAo

main1.jpg A24史上最大の製作費×アレックス・ガーランド監督によるアメリカの内戦を描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。
 アメリカ合衆国の連邦政府から19もの州が離脱。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる「西武勢力」と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。しかし、すでに首都ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っているのが予告編でわかります。
 大統領は14ヶ月に渡って一度も取材を受けておらず、ニューヨークにいたジャーナリストの四人は、彼への単独取材を行うためにホワイトハウスに向かうというストーリーのようです。
 ここからは妄想です。予告の途中で「あなたが目撃するのはフィクションなのか? 明日の現実なのか?」というナレーションがあります。また、ある場面では「僕らは同じアメリカ人だ」「どの種類のアメリカ人だ?」というやりとりも見ることができます。
 現状のリアルな世界では二度目の大統領を目指すドナルド・トランプとバイデン大統領からバトンを受け取る形になったカマラ・ハリスが次期大統領争いをしています。
 もし、トランプが二度目の大統領になった後にはこの映画のようなことが起きるのではないかと想像してしまいます。差別と分断が広がってしまった世界で、この映画は日本にいる私たちにも他人事ではないものではないでしょうか?

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
10月4日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(10月11日公開)
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=76Xe0ZjonaE

JP-photomain-JOKER2.jpg 未曾有の社会現象を巻き起こしたトッド・フィリップス監督×ホアキン・フェニックス主演『ジョーカー』の最新作となる『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。
 逮捕されたジョーカー(ホアキン・フェニックス)とのちに行動を共にすることになる謎の女リー(レディー・ガガ)。「あなたを見た時、生まれて初めて私は1人じゃないって思えた」というリー、「生まれて初めて俺は1人じゃないと感じた」と言っているジョーカーの姿も予告編で見ることができます。
 前作に比べるともう一人の自分を見つけたジョーカーの陰鬱な表情は少なくも感じます。
 ここからは妄想です。2024年下半期で世界的にも最も注目されている映画作品といえばこの作品しかないでしょう。ジョーカーとリーは二人でいることで「完全体のジョーカー」となることができるのか、あるいはありふれた男女の犯罪者として見せしめに殺されてしまうのか?
 「フォリ・ア・ドゥ」とはフランス語で「二人狂い」を意味するようです。ジョーカーといることでリーは彼の妄想に感染し、彼女を通じてより多くの民衆たちにそれが感染していくように予告編を見ると感じます。この映画を観た人にもジョーカーの妄想が感染していく、そうなればもはや誰も二人を止められなくなります。彼の妄想は果たして本当に感染するのか、確かめに映画館に行ってみませんか?

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『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
10月11日(金)全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
© & TM DC © 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

『徒花 ADABANA』(10月18日公開)
公式サイト:https://adabana-movie.jp/
予告編:https://youtu.be/xqgR2pf5Fhw?si=wDXoHgNJ7d9TgDxH

 国内外から注目を集めている甲斐さやか監督の長編二作目となる『徒花-ADABANA-』。
 「失敗したら来週死ぬのか」とどこか遠い目で話している入院患者の新次(井浦新)。また、彼が自分とそっくりな「それ」とガラスを挟んで向かっているシーンを予告編で見ることができます。「ヒトのクローンは、遠い未来の話ではなく、あしたのあなたの、お話。」というテロップもあり、どうやら「それ」は新次のクローンのようです。
 臨床心理士のまほろ(水原希子)と新次が病院を向け出して苔が茂る山の斜面にいるような場面もあり、この二人が物語の軸になっていくのでしょう。
 ここからは妄想です。芥川龍之介は自殺する前にドッペルゲンガーを見たと話しており、小説にもそのことを書いていました。もう一人の自分に出会ってしまうと死んでしまうという説もあります。新次にとっての「それ」はドッペルゲンガーだとも言えるかもしれません。
 新次は「それ」と交流をしていくうちに自分が死んでも、「それ」が自分の代わりになってくれるという安心感すら覚えるようになっていくのでしょう。
 最後は「それ」が新次から託された願いを聞き入れて、代わりに退院して家族のもとに帰っていくというものではないでしょうか。しかし、家族も全員それぞれの「それ」と入れ替わっているというラストだとホラーすぎるでしょうか。

『八犬伝』(10月25日公開)
公式サイト:https://www.hakkenden.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=TXGAj0ld5fI

★『八犬伝』メイン.jpg 宮藤官九郎脚本&窪塚洋介主演『ピンポン』を手掛けた曽利文彦監督が、山田風太郎の原作小説を元に映像化した『八犬伝』。
 江戸の人気作家・滝沢馬琴(役所広司)が友人で人気絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に構想中の物語「八犬伝」を語っている姿を予告編で見ることができます。
 28年の歳月を費やして「八犬伝」を執筆する中で馬琴は失明してしまいますが、義理の娘・お路(黒木華)の助けもあり物語は完成へ向かう。という「創作パート」があり、里見家の呪いを解く八人の剣士の運命を描く「八犬伝パート」が交錯していく物語になっているようです。
 ここからは妄想です。予告編を見ていると「八犬伝パート」にどこか懐かしさを感じました。同じく山田風太郎原作で深作欣二監督『魔界転生』のことが脳裏をよぎりました。まさしく予告編の中で馬琴が話している「虚(フィクション)」の力を感じさせるも映像であり、同時に「虚」を作り上げるための馬琴と北斎たちの「実(リアル)」がさらに際立ってくるように見えます。
 ラストは八犬士たちが里見家の呪いを解き、正義が勝つことを書き切った馬琴とそれを見届けて喜んでいる北斎とお路の姿があるはずです。そこには「虚(フィクション)」が「実(リアル)」を変えられるという願いや創作者からの思いも込められているものになっているのではないでしょうか?

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『八犬伝』
10月25日(金) 全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
©2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。

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