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未来の日本を考える『バティモン5 望まれざる者』

『バティモン5 望まれざる者』公開中

今回紹介するのは、第72回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞をはじめ各国の映画賞を総なめにした『バティモン5 望まれざる者』。
『レ・ミゼラブル』(19)のラジ・リ監督最新作である本作。『レ・ミゼラブル』製作スタッフが再集結し、バンリュー(フランス語で「郊外」の意)が抱える問題を持ち前の臨場感に新しい視点を交えて生み出した。移民たちの居住団地群の一画=バティモン5の一掃を目論む「行政」とそれに反発する「住人」による、"排除" vs "怒り"の衝突。恐れと不満の積み重ねが徐々に両者間の溝を深くし、憎しみのボルテージが加速していく様が息もつかせぬ緊迫感で描かれる。

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本作を鑑賞して、10年、20年後の日本の姿かもしれないと思った。

作品の舞台となるのは、労働者階級の移民家族たちが多く暮らしている団地。
このエリアの一画=バティモン5では、再開発のために老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進行していた。前任の急逝で臨時市長となったピエールは、バティモン5の復興と治安改善を政策にかかげる。一方、バティモン5で移民たちのケアスタッフとして働くアビーは、行政の怠慢な対応に苦しむ住人たちの助けになりたいと考えていた。
日頃から行政と住民との間には大きな溝があったが、ある事件をきっかけに両者の衝突は激しい抗争へと発展していく――。

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日本では市民が政治家に意見する場がなかなかない。だからといって海外のように激しいデモが巻き起こることもない。そんな国に住んでいるからこそ、若者たちが自分事として政治に意見することも、そもそも政治に対して自分の意見をしっかりと持っている人も圧倒的に少ない。本作を通して見る海外の若者の姿を、日本の若者たちにぜひ感じてほしいと思った。そしてもっと政治に関心を持って関わってほしい(もちろん若者だけに言えることではないのだが)。

移民問題については、日本でも今後もっと考える必要があるだろう。移民を受け入れたあとの決まり事が今の日本にはあまりにも少ない。現状として近隣住民と移民とのトラブルも実際にあるようだ。文化の違いをお互いに理解することの難しさだったり、一括りに移民といっても出身国によって対応が違うなど、問題は山積み。
これから先、さらに人口が減少していく日本は、移民を受け入れざる得ないだろう。その時、今の生活とどんな変化が起こっていくのか。とても考えさせられる作品だった。

(文/杉本結)

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『バティモン5 望まれざる者』
5月24日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国公開中

監督・脚本:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール
配給:STAR CHANNEL MOVIES

原題:BÂTIMENT 5
2023年/フランス・ベルギー/105分
公式サイト:http://block5-movie.com
予告編:https://youtu.be/P5emRKWG7vg
© SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE - 2023

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