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あなたは誰が敵か見抜けるか?『無名』

『無名』 5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開

重厚感に満ちた効果音が一気に作品の世界の中に連れていく、見事なオープニングから作品はスタートする。

正直なところ、時代背景を知って観ないと理解が難しい可能性がある作品だ。舞台は1941年・上海。政治保衛部のフーは、部下のイエと友人のワンと諜報活動を続けていた。フーは、任務に失敗した国民党の女スパイを助け、上海在住の日本人要人リストを手に入れる。だが、第2次世界大戦が激化する中、イエは日本側とも繋がる二重スパイで......。

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第2次世界大戦下の上海で、中国共産党・国民党・日本軍が睨みあう中、名もなきスパイたちが攻防戦を繰り広げる。タイトル通り、名もなきスパイの騙し合いが見所となってくる。

『敵と味方を見分ける方法が1つだけある』
鑑賞後、この台詞がとても印象に残った。
どこまでも誰が味方かわからないから、本音で話をしているとは思えない上辺の会話と探り合い。不適な笑みが不気味にさえ見えてきて、この人たちは心から笑っているとは思えなかった。特に食事の席のシーンでは唾を飲み込む音さえもためらわれるほどの緊迫感をヒシヒシと感じた。

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第2次世界大戦といえばアメリカとの攻防に目をやりがちだが近隣の国ともこんな風な戦いがあったのか。国のためには愛や自分の意思までも犠牲にしてしまうのか? それともやっぱり欲求が勝るのか? そんなハラハラドキドキも、この物語を楽しむ大きなポイントの1つとなっていたのは間違いない。
会話の中で次にどんな言葉を使って生き残っていくのかを常に試されているような作品だった。
そして、ラストまで答えがはっきりとわからないところに脚本の巧さを感じ、まんまとラストのラストまで楽しませてもらった。

第36回中国映画金鶏賞で3冠に輝いた、トニー・レオンとワン・イーボーがW主演を務めるスパイノワール。ぜひ劇場でお楽しみください。

(文/杉本結)

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『無名』
5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開

監督:チェン・アル
出演:トニー・レオン、ワン・イーボー、ホアン・レイ、森博之、チャン・ジンイー、ジョウ・シュン
配給:アンプラグド

2023/中国/131分
公式サイト:https://unpfilm.com/mumei/
予告編:https://youtu.be/jM3IGcf7Xt0
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