もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2024年6月号

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(6/21公開より)

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』三十四回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
6月公開の映画からは、この四作品を選びました。

『あんのこと』(6月7日公開)
公式サイト:https://annokoto.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=LG5UQbRm3Bk

★メイン写真_横.jpg『SRサイタマノラッパー』の入江悠監督×TBSドラマ『不適切にもほどがある!』での熱演が話題になった河合優実による「ある少女の壮絶な人生を綴った新聞記事」を基に描いた『あんのこと』。
「困ってる人間助けるのが俺らの仕事だろうが!」と怒鳴る刑事の多々羅(佐藤二郎)、その刑事のことで何かを調べるように言われている新聞記者の桐野(稲垣吾郎)、そして十代から母に命じられて売春をしてきて覚醒剤使用で捕まった杏(河合優実)。杏を中心にして、この三人の関わりを描いた作品のようです。三人が笑顔で乾杯をしている場面なども予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。今までの絶望的な世界から杏が抜け出せていくように思えるのですが...。「最初から記事書くために近づいたのか?」と多々羅が桐野に聞いている場面が予告編にあり、どうやら彼女のことで親身になっていた多々羅には裏の顔がありそうです。
 映画自体が新聞記事を基にしているということなので、やはり刑事の多々羅が裏では杏たちなど社会からはみ出した人間に手を差し伸べながらも、自分の私利私欲のために利用していた。そのことで信頼していた杏は自ら死を選ぶという悲しい終わりかもしれません。予告編の途中にある怖い顔をした佐藤二朗さんの顔を見ると、どうしても悲劇的な終わりしか想像できません。

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『あんのこと』
6月7日(金)新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開
配給:キノフィルムズ
©2023『あんのこと』製作委員会

『蛇の道』(6月14日公開)
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/hebinomichi/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=69Gr8EE21uQ

【蛇の道_メイン】LE_SERPENT_J11_HIDEOUT_MAINROOM_ANNEXROOM1A-30_h_02.jpg 世界的な評価も高い黒沢清監督が自身の98年劇場公開作品をフランスに舞台を移してセルフリメイクした『蛇の道』。愛娘を何者かに殺されてその復讐に燃えるアルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)、彼に手を貸す日本人精神科医の新島小夜子(柴咲コウ)。二人は協力して犯人たちを見つけ出して彼の娘の仇を取っていき、その復讐は終わるはずだった。
「これは組織的犯罪だ。子供の人身売買だよ」と二人にある男性が語っているシーンも予告編で見ることができます。「まさかこれ毒じゃないですよね」と小夜子に話す患者(西島秀俊)やPCモニターに映る男(青木崇高)など怪しい人物たちの姿も見れます。
 ここからは妄想です。アルベールと小夜子に向けて放たれるライフルなど、組織から二人が命を狙われる場面もありますが、小夜子が「そろそろゲームを終わらせましょう?」と言っているシーンが印象的です。
 小夜子が精神科医ということもあり、精神を病んでいるアルベールが見ていた、妄想の世界だったというオチもありそうです。さらにもう一周させてみると小夜子自体が多重人格でその中の一つの人格がその組織のボスということもありえそうです。まさに90年代後期にあった多重人格やサイコパスものを思い出すようなラスト展開を期待してます!

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『蛇の道』
6月14日(金)全国公開
配給:KADOKAWA
© 2024 CINÉFRANCE STUDIOS - KADOKAWA CORPORATION - TARANTULA

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(6月21日公開)
公式サイト:https://www.holdovers.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=JAVbo22o0qs

ホールドオーバーズ-置いてけぼりのホリディ_メイン素材.jpg『サイドウェイ』の名優ポール・ジアマッティ×アレクサンダー・ペイン監督が再び組んだ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。1970年のボストン近郊にある名門バートン校、生徒たちは待ちに待ったクリスマス休暇でそれぞれの家に帰っていく。しかし、事情があり、寄宿学校に残る生徒たちもわずかだがいた。
 堅物教師で生徒から嫌われている教師のハナム、家族に問題を抱えている問題児のアンガス、ベトナム戦争で息子を亡くした料理長のメアリーの三人が次第に心を通わせていく物語のようです。
 ここからは妄想です。「世界はつらく。複雑だ。自分についてもそう感じる。君と私は似ている」とアンガスに話すほどにハナムが打ち解けている姿も予告編で見ることができます。また、ハナムには何らかの隠し続けた「過去」があるようです。
 ハナムが「ナチス残党かよ」とアンガスに言われているシーンもあり、年齢的にも第二次世界大戦で兵士として戦場にいた可能性もあります。そこで友人を裏切ったり、裏切られたりしたのかもしれません。ずっと孤独なまま生きてきたハナムが、自分に似た若き孤独なアンガスと触れ合うことでやっと自分と向き合って変わっていく。新学期になって休暇から帰ってきた生徒たちに、その変貌ぶりにビックリされるラストではないでしょうか?

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『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
6月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
Seacia Pavao / (C) 2024 FOCUS FEATURES LLC.

『ルックバック』(6月28日公開)
公式サイト:https://lookback-anime.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=gH6zVJVHEaM

 「ジャンプ+」で公開されてすぐに漫画ファンの間で話題を呼び、「このマンガがすごい!2022」オトコ編第一位に輝いた、『チェンソーマン』などで知られる藤本タツキによる『ルックバック』が劇場アニメ化。
 学年新聞で四コマ漫画を描いている藤野(河合優実)。クラスメートからの絶賛を受けてまんざらでもない表情をしている。ある日、不登校の京本(吉田美月喜)という生徒の四コマ漫画も学年新聞に掲載され、藤野はその画力の高さに驚いてしまう。
 京本の家に小学校の卒業証書を届けに行った藤野は初めて対面した彼女に「藤野先生は漫画の天才です」と言われ、漫画という共通点から中学以降には二人で漫画を描き始めていく姿を予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。と言いたいのですが、原作となる漫画を発表時に読んでいるので、引きこもっていた京本と彼女に影響を与えた藤野に起きた「ある出来事」をぜひ目撃してほしいと思います。それはフィクションであるけれど、そういう出来事が今ひとりぼっちだと感じている人や未来を見出せない人に本当に起きてほしい、と思いました。
「私部屋から出てよかった。すごくすごく楽しかった」という京本のセリフがすべてなのかもしれません。創作における悩みと喜びを描いたこの作品が多くの人に届くことを願っています。


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。

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